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ジャバウォック (Jabberwock) とは、ルイス・キャロルの著書『鏡の国のアリス』から誕生した架空の怪物である。

【ジャバウォックの詩】
『鏡の国のアリス』の物語の冒頭、アリスは遊んでいるうちに鏡の中の世界を空想し始め、実際に鏡を通り抜けてその世界に入り込んでしまう。その中で、アリスは鏡文字で書かれた本の中に『ジャバウォックの詩』を見つけ、それを鏡に映して読むのである。

『ジャバウォックの詩』は、数学者で詩人でもあるルイス・キャロルの創作詩であり、英語で書かれた最も秀逸なナンセンス詩であると云われている。古典イギリス詩の構成をもち、複数の単語を組み合わせた混成語(かばん語)、同音異義語、擬声語などが巧みに盛り込まれている。一見難解な詩で、物語の中でアリスは字句を読み取ったものの意味が理解できず、ハンプティ・ダンプティにその解釈を依頼することになる。
内容は、森に棲んでいる得体の知れない怪物ジャバウォックを騎士が討伐するというものである。

この詩は多数の言語に翻訳されており、日本においても実に数十の翻訳が存在する。しかし、訳者によってその解釈は様々であり、この不可解なナンセンス詩を日本語において再現するのは極めて難しいと考えられる。

【ジャバウォックの姿】
『ジャバウォックの詩』によれば、ジャバウォックは「噛みつく顎、つかむ爪(The jaws that bite, the claws that catch)」を持ち、「炎の瞳を持っている(with eyes of flame)」とされる。
また、「ひとごろしき(manxome)」とも形容されており、恐ろしい性質をもつ怪物であることが想像できる。

詩の中に明確な姿の描写はないが、刊行当時の『鏡の国のアリス』に描かれたジョン・テニエルの挿絵には、奇妙なドラゴンの姿が描かれている。
その姿は、体高が人間の2倍から3倍程度で、細長い首と、長い尾、コウモリのような翼を持つというもので、魚のような頭部をしており、額には2本の長い触角がある。また、口元にも2本のヒゲのようなものが生えており、口には大きな歯が上下二本ずつ生えている。体は爬虫類のような鱗で覆われており、直立歩行する恐竜のように鋭い鉤爪のある2本の腕と2本の脚をもっている。
また、人間のようにベストを着ていることが、気味の悪い姿に滑稽な印象を与えている。

【ジャバウォックの名前の由来】
言語学者エリック・パートリッジは、ジャバウォックの名前の由来について「jabber(英:ぺちゃくちゃ喋る)」、「jab(英:突く、突き刺す)」、「jatter(言語不明)」,「wacker(言語不明)」、「wock(言語不明)」などの合成語ではないかと推測している。因みにこの見解はジョン・テニエルの挿絵から推測したものであり、結局のところ結論には至っていない。

また、後に『ジャバウォックの詩』の原典のタイトル『jabberwocky』は、「ちんぷんかんぷん」「わけのわからない言葉」を意味する英単語となっている。

因みに、著者ルイス・キャロルによると,ジャバウォックとは「議論の賜物」を表しているという。
そのためジャバウォックは、その名の謎について議論されることを前提に創作された怪物であるとする解釈もある。

【備考】
ジャバウォックは物語から誕生した怪物だが、その後さまざまな創作物に登場している。謎の多い怪物であるため、その姿や性質は様々な形に脚色されているようである。
1977年のイギリス映画『ジャバーウォッキー』では、原典で「manxom(ひとごろしき)」といわれるような人喰いの怪物として登場している。
また、1997年には日本漫画『ARMS』で意思をもったナノマシンの名称として、2010年にはアメリカ映画『アリス・イン・ワンダーランド』で恐ろしいドラゴンの姿で登場しアリスに倒されている。