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ジズ(Ziz)とは、ユダヤ教の伝説における巨大な鳥の怪物である。
旧約聖書に登場するレヴィアタン、ベヒモスと共に三頭一対の巨大な怪物とされる。

【概要】
ジズは、全ての鳥を統べる鳥の王で、鳥たちの平和と秩序を守ると云われる。 巨大な鳥の姿をしており、大地に立つとその頭は天まで届き、広げた翼は太陽を覆い隠すほどだという。
巨大な鳥の姿で描かれることが多いが、時にグリフォン(鷲の上半身と獅子の下半身をもつ怪物)の姿で描かれることもあるという。(中世ヨーロッパのヘブライ語写本では、大きな卵を抱えた首の長い鳥の姿で描かれており、ビブリオテカ・アンブロシアナの写本では、頭に耳のようなものが生えた前脚のないグリフォンの姿で描かれている。)

また、世界の終焉のとき、ベヒモスとレヴィアタンは世界を支える役目を終え、互いに死ぬまで戦わされ、二頭とも神や神に赦された人々の食卓に上るとされるが、これにジズを含め、三頭で食卓に並ぶとも云われる。

【ジズの由来】
ジズは、旧約聖書の怪物レヴィアタンとベヒモスと共に三頭一対の怪物とされるが、ジズ自体は旧約聖書に登場しない。ジズは旧約聖書の誤解釈によって生み出された怪物であり、本来は海の怪物レヴィアタンと陸の怪物ベヒモスを二頭一対とする。
空の怪物ジズを含め三頭一対とする説は、ゾロアスター教の影響と考えられている。(イランに伝わるゾロアスター教の神話には、すべての動物の頂点に立つ陸海空の三巨獣が登場している。)

また、ジズ(Ziz)はヘブライ語の誤解釈の賜物であったため、ギリシア語やラテン語の聖書に登場することはなく、ベヒモスやレヴィアタンのようにキリスト教圏で広く知られることはなかったようである。

また、「ジズ(Ziz)」の名は、その肉が様々な味であることに由来するとも云われる。その説によると、この鳥の味は「ゼー(zeh:これ)」であり、「ゼー(zeh:あれ)」である。だからこの鳥はジズという名前となったという。

尚、「ジズ(Ziz)」の単語は、旧約聖書『詩篇』50章11、80章14に登場するという。
50:11 山々の鳥をわたしはすべて知っている。獣はわたしの野に、わたしのもとにいる。
80:14 森の猪がこれを荒らし、野の獣が食い荒らしています。
(新共同訳)
ここで「獣」と訳されている単語が「ジズ(Ziz)」であり、語根ZWZ(動くこと)から派生した語で、直訳は「動く」だという。しかし、ユダヤ教の指導者ラビたちは、「山々の鳥」と「獣=ジズ(Ziz)」は同義語による繰り返しの表現であるとし、それを神秘的な鳥と考えたようである。

【ジズの逸話】
ジズにはいくつかの逸話があるが、基本的には世界の秩序を維持し、安定に導く良い性質をもつようである。但し、その巨大さ故に、害を及ぼすこともあるという。

ジズは、その巨大な体によって、南からの暴風から世界を守っていると云われる。ジズがいなければ、世界は到底この暴風に耐えられないという。

ティシュリの月(ユダヤの暦で第七の月のこと)に、ジズはその翼を羽ばたかせ、巨大な鳴き声をあげるという。その声に鷲などの猛禽類は怯え、他の動物が絶滅するまで捕食することはなくなり、世界は安定するという。

ある時、ジズの卵が落ちて割れたことがあった。そこから流れ出た卵の中身は、60の町を洪水で流し、300の杉をなぎ倒したという。ジズは、普段は卵を大切に巣の中で守っているが、卵が腐った時などにこのようなことが起きるという。

また、ジズの雛は、母鳥の助けなしに卵から孵るという。
ある時、船に乗った旅人が、このジズの雛に遭遇した。その鳥の脚は水に浸かっていたが、その頭は天に届いていた。これを見た旅人は、ここの水はあまり深くないと考え、水の中に入る準備をした。すると天から声が聞こえてきて、「船から下りてはいけない!もしここから大工の斧が落ちたら、底につくまで7年はかかる!」と警告したという。

【備考】
陸海空の三獣ベヒモス、レヴィアタン、ジズは、ペルシャにおける「ハドハヨシュ」「カル」「シムルグ」に対応するとも云われている。ジズに対応するツムルグは、イランの神話における不死鳥である。これに関しては、不死鳥フェニックスと結び付ける説もあるようである。

尚、ラビの文献では、レヴィアタンは巨大魚、ベヘモトは野牛、ジズは野鳥(タレンゴール・ベラー)とされている。また、ジズは、ユダヤ教の伝説に伝わるバル・ヨハニいう巨大な鳥とも混同され、同一視されるという。