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ゴエティアという17世紀に書かれたとされる作者不明のグリモアールがある。
グリモアールとはヨーロッパで流布したとされる魔術書の総称である。
グリモアと表記される場合もある。
グリモアールとはフランス語で、魔術所の意味であり、奥義書、魔導書、黒本や黒書とも呼ばれる。
俗に言う黒魔道を記した書物という認識で間違いない。

多くのグリモアールには悪魔や精霊を召喚し、願い事を叶えさせたりその悪魔そのものを使役するための方法が記されている。
召喚するための一般的な方法として魔方陣を描く必要があるため、その魔方陣の図などが記載されているのである。
この魔方陣を描いて悪魔や精霊を召喚するという方法は日本の漫画、アニメやゲームのモチーフとしても多く用いられ、定番となっている。

ゴエティアには72の悪魔が記載されており、みな地獄に住んでおり、それぞれに爵位が与えられている。
爵位とは悪魔の階級を指すものである。
基本的に階級が高い悪魔ほど強い魔力を持ち、強力な悪魔と考えてよい。
そしてこの72の悪魔はそれぞれ大規模な軍団を擁しており、ゴエティアには個別に非常に詳細に記載されている。

オロバスとはこのゴエティアと呼ばれるグリモアールの内容に登場する悪魔の事を指す。
オロバスは20の軍団を擁する王子であると記されてる。
大公であると記されてる資料もいくつか確認されているが、王子であるという可能性が現在のところ有力である。
召喚者の前には馬のような姿で現れるが、人間の姿になる事も可能とされている。

このオロバスという悪魔は他の多くの悪魔が持つ性質とはやや異なり、召喚者と親睦を深めたがるという特徴がある。
本来なら悪魔は非常に気位が高く、召喚者との間でも契約に基づいた非常にビジネスライクな関係性を重視する場合が多いため、このオロバスような気さくな性質は悪魔としては珍しい毛色といえる。
そのためオロバスは召喚者を惑わせたり、偽りの契約を結ばせようと懐柔するといった事は一切行わない。

オロバスの有する能力で最も特筆すべきは予知能力である。
オロバスの予知能力は、現在、未来はおろか、遠い過去の出来事まで透視する事が可能とされている。
そのため召喚者が望めば遥か昔の天地創造の真実にも答える事が可能である。
また遠い未来、世界がどのような形で終焉を迎えるかもオロバスには見えている。
当然召喚者がどのような形で人生に終止符を打つかもハッキリわかるため、それを尋ねれば真実を語ってくれるだろう。

そしてもう一つの能力として、召喚者の望む権力や地位を与える事ができる。
さらに敵味方、関係なく召喚者に協力させる能力もあるとされている。

召喚者にはこの世の始まりと終わりの真実を語り、召喚者本人の行く末も望めば語り、思うままの名誉や権力をもたらし協力は惜しまない。
このようにオロバスは召喚者に対して非常に誠実で、いかなる霊からも召喚者を守り、決して召喚者を欺くことは無いのである。

一説によるとオロバスは誰も近寄らないような広い城の奥で無限とも思える時間を孤独に過ごしたとされている。
この悠久の時のはざまでオロバスは孤独に打ちひしがれ、寂しく過ごしたのであろう。
そんなオロバスにとっては召喚者は救いの神なのであろう。
召喚者に協力は惜しまず、自分の能力のすべてを召喚者のために使い、親睦を深める事を望むだろう。
この孤独で哀れな王子にとって召喚者とは、ただの契約者を超えたかけがえのない友のような存在なのであろう。