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シパクナー(Zipakna)とは、マヤ神話に伝わる怪力の巨人であり、怪鳥ヴクブ・カキシュの一番目の息子である。父親と同じく傲慢で邪悪な性質だったため、双子の英雄神フンアフプーとイシュバランケーによって倒されたと云われている。

【概要】
シパクナーは、怪鳥ヴクブ・カキシュとその妻チマルマットの間に生まれた一番目の息子であり、物凄い怪力の持ち主であったが、父親と同じく傲慢で邪悪な性質であったという。「山を造った者」とも呼ばれ、チガク、ペクル、ヤシュカヌル、マカモブ、フリスナブなどの多くの山の神々を創造したが、「自分が大地を造った」などと嘯き傲慢に振舞っていたと云われる。
高地キチェ・マヤの聖なる書物『ポポル・ヴフ(Popol Vuh)』には、シパクナーは邪悪な巨人として登場し、その中で双子の英雄神フンアフプー(Hunahpu)とイシュバランケー(Ixbaranque)によって倒されている。
ある時、シパクナーは400人の若者を殺してしまうが、それを知った双子の英雄神はシパクナーの好物である蟹(実はシダの葉で作った偽物)を使って彼をおびきよせ、山崩れの下敷きにして殺したという。

【双子の英雄のシパクナー退治】
ある日、シパクナーが川で水浴びをしていると、400人の若者(戦士)が一本の大木を皆で引きずりながら通りかかった。若者たちは家を建てるために木を切り倒したが、あまりにも巨大な木だったので400人でも担ぎ上げることができなかった。それを見たシパクナーは大木をひょいと担ぎ上げると、それを運んでやったという。
若者たちは感謝して、明日も力を貸してくれるようにシパクナーに頼んだが、その存在を恐れて(あるいは、彼が邪悪な者だと知っていたために)シパクナーを殺してしまおうと考えた。そして、大きな穴を掘ってシパクナーを埋めてしまうことにしたのである。
翌朝、シパクナーがやってきたとき、400人の若者たちは大きな穴を掘って待っていた。そして、家を建てるために穴を掘っているのだが、自分たちではもう手が届かないので、穴を深くして欲しいとシパクナーに頼んだ。シパクナーはまたも快く仕事を引き受け、穴に入って土を掘り始めた。しかし、その姿が深い穴の中に隠れてしまうと、若者たちは昨日の大木を穴の中に落としたのである。穴の底から大きな悲鳴が聞こえ、やがて何の音もしなくなった。
若者たちは喜び、次の日にたくさんの蟻が穴の中からシパクナーの爪や髪を持って出てくるのを見て、怪物を倒したことを祝して酒盛りをはじめた。ところが、400人の若者たちが酔いつぶれて寝てしまったとき、そこへ怪物シパクナーが現れたのである。
実はシパクナーは若者たちの作戦に気づいており、横穴を掘って大木を避けると、爪や髪を蟻に運ばせて死んだふりをしていたのである。シパクナーは若者たちの家を持ち上げると、そのまま彼らの上に投げ落として皆殺しにしたという。
(因みに、この400人の若者たちは、夜空の星になったと云われる。)

それを聞いた双子の英雄神フンアフプーとイシュバランケーは、400人の若者が殺されたことに怒り、シパクナーを退治する決意をした。
シパクナーの好物が蟹であることを知っていた双子の英雄神は、お腹を空かせたシパクナーを見つけると、大きな蟹がいると言ってメアグアン山の谷へ案内した。その蟹は双子が大きなシダの葉で作った偽物だったが、シパクナーは偽物と気づかずに蟹を捕まえようと川の中へ入っていった。しかし、いくら捕まえようとしても蟹は逃げまわり、とうとう洞穴の中に入ってしまった。シパクナーが続いて洞穴の中へ入り込むと、双子の英雄神は上から山崩れをおこし、シパクナーを土砂の下敷きにして殺したと云われている。