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送り提灯は怪異のひとつであるが、東京都墨田区に江戸時代より伝わる怪談「本所七不思議」の一つでもある。
本所七不思議は江戸時代の都市伝説であり落語や噺として伝わってきた話である。

◆怪異「送り提灯」の概要

提灯を持たずに夜道を歩いていると前に提灯のような灯りが揺れている。
その灯りに近付こうとするが灯りは消え違うところに灯りが点く。また近付こうとするがその灯りはまた消える。これを繰り返す怪異である。
石原割下水では提灯小僧が有名である。
夜道を歩いていると現れ追いかけると消えるというエピソードを持った怪異だが送り提灯と同一の怪異と言われている。
この提灯小僧は宮城県でも語り継がれており、理不尽な殺人があった場所に出没するという話もある。
また、これも本所七不思議のひとつである「送り拍子木」も提灯が拍子木になっただけの怪異であり同一の怪異とされる。

◆本所七不思議のひとつ「送り提灯」

江戸時代の話であり、本所、出村町あたりでのことである。
ある帰宅が遅くなった者が夜なのに提灯も持たずに歩いており、困っていると前方に提灯の灯りが見えるのである。
「これは助かった。いい道連れだ」
これ幸いと近付こうとすると灯りがパッと消えてしまう。
「あれ、どこに行ったんだ?蝋燭の火が消えたのかな?」
キョロキョロと辺りを見回し、しばらくするとまた前方で灯が見える。
その灯に近付こうとするとまた消える。
それを繰り返しどこまで行ってもまったく灯に近付けない。
そしてハッと気が付くと夜が明け朝になっており、周りは草原で一人佇んでいる。
それは葦の原であり、よく見るとそれは片葉の葦であった。

この話にはいくつかのパターンがあり、これはその内のひとつである。
他のパターンでは、ある夜の帰り道、道に迷ってしまう。
途方に暮れて困っていると遠くの方でちらちらと灯りが見える。
家があるのかと思い近付いて行くとふっと灯りが消えてしまう。
不思議の思いしばらくするとまた明かりが付き近づくと消える、というのを繰り返す。
しかし、そのあと無事に家に帰られるというパターンの話もある。

また「送り提灯」を持っている女性と会話をするというパターンも存在する。

まだ薄ら寒い早春の夜、月が朧に霞みわずかに風が吹いていた。
その夜に法恩寺というところに「送り提灯」という怪異がでたとのことである。

浅草か吉原で一杯ひっかけてきた侍が千鳥足で法恩寺の前を通りかかった。
提灯を持たず辺りは真っ暗である。
一人ではなく二人である。もう一人の従者は臆病者でビクビクしている風である。
この辺りでの怖い話を知っているらしい。
侍は酒の勢いも借り、強気でいる。
すると前方に提灯の灯りが見える。
心強い感じがしてよく見ると腰元風の女性が一人立っているのが見える。
「どちらへ行かれるのですか?」
「ちょっとそこまで…」
このような会話をし、連れ立って歩いて行く。
「では、手前はここで…」
「私もここで」
と別れて女の後ろ姿を見送ると二、三間(約3.6~5.4m)も行かない間にぼんやりと消えていってしまう…。
そこであれは「送り提灯」だったのか…というお話です。

最初の話と後の話で違うところはもちろん会話をしているというところが大きいが灯が提灯の灯であると確認できているところである。
最初の話では灯に近づいてしまうと消えてしまい、その灯が本当に提灯の灯なのか確認できていないが後の話では女性が提灯を持っているところを確認しているのでどちらかというと提灯小僧に近いのではないかと思われる。

ちなみに最初の話の最後の「よく見るとそれは片葉の葦であった。」という部分は本所七不思議の別の話「片葉の葦」に繋がっていると思われる。