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トイレというのは、いつの時代も怖い話の舞台になりやすい。
カイナデという言葉を聞いたことがあるだろうか。
これは、妖怪の名前である。
もともとカイナデは、掻い撫でと書いていた。表面を軽く撫でるといった意味を持っている。
カイナデの話は、全国各地に残されており、地域によっての伝わり方にも、違いがあるとされる。
現在の京都では、カイナデについてこのように残されている。
節分の日の夜に、トイレの中からカイナデの毛むくじゃらの手が出てきて、入った人のお尻を撫でてくるらしい。
カイナデは、今でこそ妖怪扱いされているが、最初は違い、トイレの神様である便所神だったとされている。
大晦日や、節分の日の夜は、魑魅魍魎が出やすいことから、京都ではトイレの中にカイナデがあらわれるとされ、御灯を供えていた。
また、青い色の紙と白い色の紙、または赤い色の紙と白い色の紙を使い、人型に切り取って男女一対の人形も飾られていたとされる。
夜、トイレに行く場合にカイナデに遭遇しないとされる方法もいくつか残されている。
一つは、呪文ほどではないが、言葉を発することである。
「赤い紙をやろうか。白い紙をやろうか。」
これは、先ほどの人型にした紙を指していると思われる。生きている者の代わりに、この人型を差し出していたと考えられている。
他にも、夜トイレに行きたくなってしまった場合、カイナデにあわないためにドアの前で、便所神であるカイナデに
「明日からはもう夜にトイレには来ません。」と伝え、頭を地面につけるように、お辞儀をすることで許されていたとされる。
今でこそ洋式の水洗トイレが多く普及しているが、昔は汲み取りが主流である和式トイレが多く使われていた。
そうしたことからも、和式トイレに反対にしゃがむといったことでも、カイナデにあわないと伝えられている。
また、御灯の灯りがついている時は、トイレに行かないほうがよいとされていた。
いつしかカイナデは、家のトイレから学校のトイレへと出没場所を変えたとされる。
これが、学校のトイレの怪談の始まりとされている。
小学校の女子トイレで、見えない何かにお尻を撫でられたといった話は多く残っており、聞いたことがあるのではないだろうか。
昔の小学校のトイレは、電気をつけていても、少し薄暗いようなトイレが多かった。
放課後に一人でトイレに行ったときに遭遇することが多く、もしかすると、お尻を撫でられた経験がある人も中にはいるのではなかろうか。
それはきっとカイナデによる仕業だったのだろう。
昔は、カイナデに供えていたとされている、赤い紙や白い紙といったものも時代の変化によって、別のものへとかわってしまったようだ。
カイナデにあわないために人が唱えていた「赤い紙をやろうか。白い紙をやろうか。」という言葉も、今では、トイレの中から聞こえてくる言葉にかわってしまった。
その問いかけに、赤い紙と答えれば、血だらけになって命を落としてしまう。青い紙の場合もあり、青い紙と答えると、全身の血を抜かれて真っ青になって命を落とすといわれている。この問いかけから助かるには、白い紙または何もいらないと答えるのが生き残る方法だとひろまっているみたいである。
きれいなトイレが増えてきているが、都会を離れれば和式トイレや汲み取り式といったものも残されているところはあるだろう。
もし、夜にトイレに行きたくなったときは気を付けたほうがいい。
それが節分の日だったとしたら、トイレの中から突然手が出てくるかもしれない…