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ウグメは「産女(ウブメ)」、「姑獲鳥(コカクチョウ)」とも呼ばれる妖怪である。
人の子供を奪うとされ、全国で恐れられてきた。
妊娠したまま亡くなってしまった妊婦を土葬するとウグメになると言われ、埋葬の際は腹を裂いて子を取り出す風習があった。
取り出した胎児を母親に抱かせることでウグメにならないと信じられており、子が出せない場合は人形を抱かせる方法で供養した。

ウグメは腰に巻いた布が血まみれで、乳児を抱いている女性。
道端でウグメに会うと子を抱いてくれとせがむと言う。
地域によって違いが出るが、ほとんどのウグメは子供を抱かせると消えてしまうのが一般的だ。
福島ではウグメを「オボ」と言い、子を抱かせるまでは同じだが、ウグメが消えると抱いていた子に喉を噛まれるとされている。
対処法としては、抱いた子を自分と反対に向けるといいらしい。
もしくは、遭遇した時に紐や布を投げるとウグメが気を取られるので、その隙に逃げるという方法も伝わる。
また佐賀では、朝になると受け取った子供はほとんどが石や石塔だとされる。
ここまでではウグメの言い伝えである「子を取る」という現象がないのだが、長崎ではウグメをウンメ・ウーメと呼び、青い光として現れる。
難産で女性が無くなる、若い人が無くなると言う言い伝えだ。

茨城に伝わるウグメはウバメドリと言われ、子供の命を取るものとして伝わっている。
その名の通り鳥の姿をしており、夜に干してある子供の服に毒の印をつける。
するとその子供は原因不明の病で命を落とすというものだ。
また、夜にウバメドリが止まった服を着ると、夫に先立たれるとも言われている。
この茨城のウバメドリは中国に伝わる「姑獲鳥」に類似している部分が多い。
姑獲鳥は毛を着ると鳥になり、脱ぐと人の姿になるとされる鬼神。
他人の子供を奪う習性があり、夜に干してある子供の服に血で印を付けるのだ。
するとその子供は魂を奪われると伝わっている。
中国の姑獲鳥と日本のウグメが同一であるかは分かっておらず、しばしば混同される傾向がある。

子供に執着することの多いウグメだが、伝承は子供だけに限らない。
山形大蔵村に伝わっているウグメの話では、通りかかった武士に「100編念仏を唱えている間に子を抱いてくれ」と頼んでくる。
念仏が1つ終わるごとに子はどんどん重くなるが、耐え抜いた武士は強い力を授かったそうだ。
中にはウグメの子を抱いた翌日に怪力を授かり、力士として活躍した者もいる。
決して命を奪うだけの妖怪ではないのだ。

宮城や福島ではウグメは姿のない妖怪として知られる。
竜神様が灯すとされる龍灯が海から陸に上るのだが、この龍灯はウグメが運んでいると伝わっている。

主に妊婦にまつわる妖怪として言い伝えられているウグメは、実は昨今でも目撃例がある。
女性が運転する車が登校中の学童の列につっこむという事件があったのだが、運転していた女性の話では道路の近くに変な老婆がいたため避けようとして事故になったと言う。
しかし学童たちの話では老婆ではなく、オートバイを避けようとしていたと証言されている。
ウグメと無関係に思えるが、この事故のあった場所は静岡市の「産女」。
昔から「産女新田」と呼ばれていた土地なのである。
江戸時代に1人の妊婦が命を落とし、何度も霊となって現れたことから「産女明神」として祀ったのが由来とされている。
ここには子安観音が祀られているため、昨今では安産祈願の神社として賑わっている。