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手の目とは、名前の通り手のひらに目の付いた妖怪である。
顔にあるはずの2つの目玉が、片方ずつ左右の手のひらに着いているという。
もちろん顔には目玉がなく、完全に盲目の人物なのである。
この手の目には、出会っただけで人の命を奪ってしまうものと、そうでないものがある。

昔、ある男が墓場へ肝試しに出かけた。
化け物でも出ないものかと闇の中を歩いていると、ふと1人の座頭姿の者が現れた。
こんな夜更けに自分のように肝試しにきたのかと、不思議に思いながらも安堵しつつ側に寄ってみる。
すると、その男の顔には目玉がなかったのである。
一瞬ぎょっとしたもののただの盲人だと気付いたところ、その座頭姿の男は両手をこちらへ差し出してきた。
何をよこすのかと見てみると、差し出された男の手の平には目玉が付いていたのである。
恐怖を感じた男は急いでその場を走り去り、近くの寺へと逃げ込んだ。
寺では曽呂が1人でいたため、男は事情を話すと、長持ちの中にかくまってくれるよう頼んだ。
しばらくすると先程の手の目が寺にたどり着いた。
男が隠れた長持ちの側へ来たのだが、蓋を開けようとはしない。
不思議に思っていると、やがて手の目は骨をしゃぶるような音を出し、そのまま去って行ってしまう。
手の目がいなくなったことを知らせようと曽呂が長持ちの蓋をあけると、中に隠れていた男は骨を抜き取られて皮だけの姿で死んでいたという。

また、岩手県に伝わる手の目は、出会ったからと言って人の命を取ったりはしないようだ。
文献によれば、ある夜、旅人が宿を探していた時に盲人と出会う。
盲人はしばらく何かを探しているようだったため、旅人が手伝おうとしてふと見ると、盲人の手のひらに目玉が付いていた。
あまりの出来事に驚いた旅人が近くの宿に逃げ込み、宿屋の主人にいきさつを話して聞かせた。
すると宿屋の主人は、盲人と出会った場所で最近殺人があったと話す。
盗賊が盲人であると知ってわざと襲い、殺して金品を奪ったというのだ。
殺された盲人は死んでも死にきれず、盗賊の顔を一目見てやりたいと恨んだのだという。
その思いが盲人の目を手のひらに付けたのではないかと。
自分を殺した盗賊を探し回っている盲目の妖怪として、表れ始めたのだという。

また、金品を奪った盗賊たちに復讐しようと手探りでさまよううちに、手のひらに目玉ができたとも言われる。
いずれも、人間の恨みが生んだ妖怪として恐れられている。

この手の目は、日本だけでなく海外でもモチーフになっている。
日本と同じように、顔の目玉はなく完全に盲目の姿である。
その代わりに両方の手の平に目玉が付いており、普通にものを見ることができる。
キリスト教では、十字架に張りつけられたキリストには手のひらに釘を打たれた跡があったことから、手のひらに目玉を付けた生き物やモンスターが登場する。
これは手の目をモチーフにしたわけではない。
昨今公開された海外の映画「パンスラビリンス」には、顔面に眼球がなく、手の平に目玉が付いたモンスター「ペイルマン」という者が登場している。
日本の手の目は、手を前に突き出して手の平を前方に向け、物を見るような仕草で描かれる。
しかし海外では、顔の目玉の位置に手の平をつけ、普通の顔のようにして物を見る。
文化の違いで手の目の行動も、生まれた理由も違ってくるのである。
妖怪という伝説の生き物は世界中に存在したとされ、決して日本だけのものではないのだ。