祖母から聞いた話。

祖母がまだ小さい頃、同じ集落に万吉という老人がいた。
無愛想で、集落の人間とあまり付き合わず、しかもどういうわけか毎晩お経を読むクセがあるので、大人達からは変わり者扱いされていた。
しかし根は優しく菓子などをくれるので、子どもからは意外と好かれていた。祖母らは親しみを込めて「お経のおんやん」と呼んでいたそうだ。
その万吉さんが、若い頃の不思議な体験を語ってくれたことがあるという。

万吉さんは大塔村の生まれで、若い頃はカシキ(炊夫)をしており、木こりや炭焼き達と一緒に山に入って仕事をしていた。
彼の“奇癖”はこの頃からすでにあったそうで、山でも毎晩必ずお経を上げていたらしい。
夜は同じ小屋に皆が集まって眠るので、他の仲間から「うるさいから止めろ」と嫌われたが、それでもお経を読み続けたそうだ。

激しい大雨の降る晩だったという。
小屋の中で片付けをしていると、外から自分の名前を呼ぶ声がする。
「万吉来いよぉー、万吉来いよぉー」
激しい雨音にも関わらず、何故かその声ははっきりと耳に届いたそうだ。
周りの仲間に聞いても「そんな声など聞こえない」と言われ、しまいには「とうとう頭がおかしくなったか」とからかわれる始末だった。
どうやら、自分にしか聞こえていないようだった。
「万吉来いよぉー、万吉来いよぉー」
あまりに何度も呼ばれるので、万吉さんは小屋から出て、大雨の降りしきる中、暗い山を声のする方に向かって歩いて行った。
しばらくすると、ゴゴゴゴと物凄い地鳴りがして、足元が揺れ始めた。
「山津波だ!」と思った瞬間、一際激しい音と震動があり、大量の土砂と岩石が山の上から流れ出し、辺り一面を飲み込んでしまった。
万吉さんは運良く難を逃れたが、小屋は山津波の直撃を受け、一瞬で押し潰されてしまった。
残念ながら万吉さん以外は一人残らず亡くなってしまったという。

「あの不思議な声は山の神さんで、毎日お経を上げていたから助けてくれたんだと思う。お経というのは尊いものだから馬鹿にしてはいかん」
と、お経のおんやんは言っていたそうだ。

shibro様
ご連絡ありがとうございます。
確かに「妖怪」カテゴリー消えちゃってますね。そして何故かこれだけ「掲示板」になっているという……笑
一時的なものかどうか、運営会社に問い合わせてみます。結論出るまでは「怖い話」に投稿します。
わざわざご連絡ありがとうございました。助かりました。

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岩坂トオル様
仕様が変わっているのに今頃気が付いて「妖怪」のジャンルがな~いと焦ってしまった。
岩坂さんに言おうかなとずっと思っていて、余計なお世話だと思われてはいけないと我慢してたんですが、「怖い話」のほうへ来てください(≧人≦)オネガイシマス

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車猫次郎様
評価&コメントありがとうございます。
そうですね、私も低い男の声を想像しながら話を聞きました。
ハッピーエンド?なんですけど、少し不気味さが残るというか、色んな解釈ができる話だと思います。
どうもありがとうございました!

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激しい雨の中、どこからともなく聞こえてくる声
「万吉来いよぉー」
文字だけなのに、年老いた男の人の地の底から響くような低い声が聞こえてきました。

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shibroさん
評価&コメントありがとうございました。
暗い山奥で大雨の降る中外に出る、もうそれだけで怖いですよね。しかし、万吉さんを呼んだのが本当に神様だったのかなぁと思います。声のする方に進んで行った先には、何かいたんでしょうかね……?

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神様に助けてもらったという話なのに、妙に怖い。
怖い描写がないのにぞっとするという文章を私も書きたいと思いました。

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