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"ニタゴンとは、1990年代に日本国内で目撃されたUMAである。

事の発端は1996年6月23日、島根県仁多町(現、奥出雲町)三沢のとある振興住宅団地で、ウサギかカンガルーのように跳ねながら移動する謎の小動物を発見したことに始まる。

体長は約40cmほどで、体毛は短く、むしろ全身の肌が露出しているような風貌であった。色はやや薄めの茶色で、顔はシカのようでもあり、イヌのようにも見えたらしい。口には鋭い牙が覗き、天に向って大きな耳がぴんと立ち、手足は棒切れのようにやせ細っていたという。

その謎の小動物は、元気が無いのか足取りもおぼつかないようであった。山の斜面を登ろうとするも途中で何度も転んでは周りをさまよっていた。放っておいたらそのまま死んでしまいそうに衰弱していたことと、その謎に包まれた正体が住民の興味をひいたのか、すぐに近所の住民によって捕獲された。捕獲し近隣住民がその正体を予測するも、何かは分からなかった。

正体の分からない動物を住民の手で保護し続ける訳にもいかず、地元の警察に届けられることとなった。警察署でもその正体について議論されたが結局分からず仕舞いであった。とりあえず仁多町で発見された未確認生物ということで「ニタゴン」と名付けられることとなった。

ニタゴンはその姿形から、近隣住民からはカンガルーなのではないかと噂されていた。しかしカンガルーと言えば、動物園のような施設でなければ、本来はオーストラリア大陸周辺に生息しているはずの動物である。そんな動物が、日本という生息していないはずの土地に出現・目撃されたとなると、動物園からの脱走ではないようであったので、一部ではテレポーティング・アニマルなのではないかという説まで出た。テレポーティング・アニマルとは、本来その地域には生息しないはずの場違いな動物が目撃されることである。

ニタゴンは果たしてテレポーティング・アニマルだったのだろうか。警察署に届けられたニタゴンはその後、野生動物保護の見地より、警察署から県の農林振興センターに預けられることとなった。

そして発見から2日後の6月25日、ニタゴンはその正体を暴くため、農林振興センターから大田市にある博物館へと移された。そして専門家により謎に包まれていたその正体の鑑定が行われた。その結果は意外なものであった。なんのことはない。ニタゴンはUMAではなく、生後3か月ほどのキツネの仔であることが判明した。

通常のキツネと違って毛が短く全身の肌が露出していたように見えたのは、皮膚病にかかっていて毛が抜け落ちてしまったためである。手足が痩せ細っていたのはおそらく、親ギツネとはぐれて迷子になってしまい、まともな餌にありつけなかったからだろう。ニタゴンにとっては生死の縁を彷徨っていたところを、近隣住民に助けられ、九死に一生を得たということである。

博物館で鑑定を受けた後は、農林振興センターでしばらく育てられ、皮膚病の治療も受けたそうだ。ニタゴンもとい仔ギツネはミルクを良く飲み、皮膚病も快方に向ったそうである。しかし、その後のニタゴンもとい仔ギツネの消息は不明である。おそらくは野生に返され、余生は野山で元気に走り回ったことだろうと願いたい。"