第三回 リレー怪談 2017年 夏 投稿掲示板

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朝の身支度を終え、まだ眠る渚の部屋で一同円を描くように座り込んだ。
1秒でも惜しい、早く曲津島へ行こうと興奮気味の東野さんに異議を唱えたのは、珍しくも潮だった。
・この状態の渚を一人置いてはいけないこと。
・昨夜の渚に何があったのか、何一つわかっていないこと。
・双子がまつわる島へ、私達西浦姉妹が行くことに安全性があるとはまだ思えないこと。
・客をほったらかしたまま消えた園さんが、無関係とは思えないこと。
日頃、ヘラヘラして頼りない潮にしては、力強く、もっともらしい内容だった。

東野さんの落胆ぶりは、絵に描いた様に分かり易かったが、
「確かに…準備が足りない…か」
一言つぶやくと、渚の方に目をやった。
昨夜の渚の様子から、既に私たちが、良からぬ何かに足を踏み入れたことは、皆が分かっていた。

私は、島へ行くことが先延ばしになったことへ、少し安心しながら八月の顔を見た。
いつもと変わらない、怯えた様子はあるが、昨日までと変わった様子はない。
昨夜の、“あれ”を見たり聞いたりしたのは、やはり私だけのようだった。
皆に話すべきか…私は迷っていた。

食事の買い出しに、私と潮が行くことになった。
漁業の町は朝が早く、近くの商店も惣菜やらパンやら、コンビニまでとはいかずとも、それなりに並んでいた。
私達が、店ごと買い占める勢いでどんどん商品を手にするのを、店番のおばあちゃんはニコニコと見ていた。
観光客なんて来そうにもない場所の割に、よそ者に警戒心がないんだなぁ…と漠然と思っていた。
田舎で、よそ者が来ていることは知れているようだが、民宿に泊まっている私たちが食材を買い込むことに何も思わないのだろうか…
それは潮も同じだったようだ。

会計の時に、潮がおばあちゃんと世間話を始めた。
都会から来た若者との話を、嬉しそうに楽しんでいたが、
「民宿の園さんがいなくなった」
その話をすると、顔中皺だらけでどこが目なのだろう?と思えるおばあちゃんの笑顔が止まった。
『笑顔がなくなった』のではなく、まさに『止まった』。
笑顔が張り付いたように感じた。
しかし、すぐに優しいおばあちゃんに戻り
「ほうかほうか。
食べ盛りの若いもんが、それじゃ足りんだろう。
ちょっと待ってなね」
そう言うと、自分たち家族のご飯をお握りにしてくれた。
何度も何度もお礼を言う私達に、今度はおばあちゃんが色々と話してきた。
内容は「いつまでの予定か」「何人なのか」など、他愛のない話しばかりだったが、そこに
「もしかして、双子がいるのかい?」
の質問を挟んできた。
おばあちゃんは自然に振る舞ったつもりだろうが、この質問以外はダミーなのだとすぐに分かった。

無言の朝食を終え、ゴミを片付けようとした時…
「あぁぁ!ずるい。なんで起こしてくれないの?」
と、渚が大声を出しながら飛び起きた。
これには、さすがの東野さんも驚いたようだった。

「渚…あんた、大丈夫なの?」
「へ?何が?
それより、お腹ペコペコだよ。私にも何かちょうだい!」
食材に飛んできた渚から、鉄と生臭い臭いが漂った。
「うっっ…
渚、先にシャワー浴びておいでよ。
あんた、昨日シャワーも浴びずに寝っちゃったから、汗臭いよ。
それに、歯磨きもしてないよ。
ほら、行って行って!」
「えっ?臭い?
って、七月、なんか言い方きつくない?」
「いいからいいから。はい、タオルね。
歯磨きセットも持っていって。早く早く!」

可哀想なくらい強引に追い出してしまった。
八月はまた私の腕をがっつり掴み出した。
「覚えて…ないみたいだな…」
「…ですね。
ひとまず俺、脱衣所の外で見張っときます」
残された3人は、各々何かを考えているのか、黙ったままだった。

20分ほどすると、二人が言い合いながら部屋へ入ってきた。
「信じられない。
女の子が入ってる風呂場の前で何してんのよ!」
「だからぁ…はぁ…東野さん何か言ってくださいよ」
「あぁ…ほらあれだ。
ばあさんの歌の事もあるしな。
それに、昨夜から園さんもいないんだよ。
だから念のため…な」

この東野さんの言葉で、昨夜の渚の行動は、ひとまず本人には内緒にするのだと、全員が分かった。

「八月…お前、いい加減七月の腕離してやれよ。
ほら、お前の手形のあざが出来てて、完全にホラーだよ。
握られすぎて、片腕だけゾンビみたいじゃん。
それ以上握ってると、脂肪分だらけのミンチができるぞ」
十分、射程範囲内にいた潮を、条件反射で仕留める。
「あんたら、本当に仲良いね」
その言葉に、我に返ると、皆が私たちを見て、微笑んでいた。
その微笑みに癒されつつも、懐かしく感じた。
皆の笑顔があったのは、いつまでだったんだろう…

私は、昨夜見たものを、皆に聞いてもらおうと決意した。
一人で抱え込むのは怖すぎる。
皆で考えた方が、何か分かるかもしれない。
話しを聞いた東野さんが、今朝までの経緯を事細かに、順に紙に書いていった。
昨夜の渚のこと以外…
商店のおばあさんの質問すら書き留めた。

その用紙を眺めていた東野さんが
「一つ気になるな…
禁忌だった話をあのばあさんが聞かせたのが、西浦。
“若い者が来ていることが嬉しいから”と園さんは言っていたが、あの歌も禁忌に近い。
それを聞かせられたのも、西浦。
どちらも西浦に聞かせる前には
“これを聞くのは、あんたが最初で最後”
と言っている。

鍵は西浦な気がしてきた…
西浦、お前なんでここから引っ越したんだ?」

「え?何でって…
何でだろう?」

「お前さ…姉妹いないか?」

「えー、何で知ってるんです?
いました。いや、いたらしいです。
私はあまり覚えてないんですけどね、二人とも死んじゃったんです」

「…二人?
…もしかして、お前…
三つ子だったんじゃないか?」

「そうなんです。よく分かりましたね。
珍しいでしょ?」

「…ここに来ること、親に言ってきたか?」

「…いやぁ、それが…
うちの親、ここの話しをするのも嫌がるんですよね」

「どういうことっすか?」

「恐らく…
西浦の他二人の姉妹は…
この町の何かの儀式に利用されたんじゃないのか…
しかし、ここでのこだわりは“双子”だ。
三つ子でも、二人だけ並べば双子に見える。
しかし、事実は三つ子。
禁忌の禁忌…だった…とか…」

「えっ…
いや、それは…そんなこと、ないでしょう。
だって、私がここを出たのなんて、十数年前ですよ。
平成の時代ですよ。
そんな時代に、禁忌だの、生贄だの…」

「そっ、そうですよ。
東野さん、いくらなんでも・・・なぁ?」

「う…うん…」

「……私…トイレに…行ってきます…」
少しふらつきながら、渚が部屋から出て行った。
すぐに後を追おうと、潮が立ちあがると
「トイレに付いてくるとかやめてよね」
そう言い残し、襖をぴしゃっと閉めて行ってしまった。

部屋の隣にあるトイレの扉が閉まる音を、皆が確認した後で、東野さんが小声で言った。

「西浦から目を離すな。
特に…今夜。
もしまた西浦がどこかに出ていきそうなら、制止せず後をつけよう」

後をつけた結果、渚が何を食べるのか…
想像しただけで吐き気がする…

全員がそう感じつつも頷いて見せた時、八月が一言…
「渚ちゃん…
渚ちゃんなんだけど…
…渚ちゃんじゃない…」

返信

「 いやぁーッ!いやぁーーーッ‼︎」

渚の悲鳴は鋭く私達の耳を劈き、そして崩れ堕ちた姿のまま、「どうして?どうして?」と自分の手や足を、ゴシゴシ擦り出した。
動く度に、靴についた泥が、部屋の畳に擦り付けられ、
赤黒い箇所が、ジトリと染み込むように渚の顔や手足に広がって行くように見える。
同時に、渚が動く度、鉄の匂いが、フッと鼻をかすめる…。

「渚、落ち着いて、」
そう言って近づこうとした私を、とてつもない力で八月が止まる。
「なっちゃん、ダメ、ダメッ!」
「八月、ごめん。ちょっとだけ離して?渚のこと、見てあげなきゃ。平気だよ。怖くて気が動転してるだけ…」

「ダメッ!!」

普段、おとなしい八月の荒げた声に、今度は皆、一斉に八月を見た。八月はその皆の視線に、ハッとした様な顔をして、
「でもダメ。近寄っちゃダメッ!」
涙を浮かべながら、私の腕を離しはしない。

潮も、どうしたらいいのかわからないと言った顔で、
渚の異様な姿を引きつった顔で見ているのが精一杯の様だ。
どうしよう…、何が何だかもう…、

「渚…、どんな奴がいたんだって?」

東野さんだけが、慌てるでもなく、怖がるでもなく、
いつもの同じ声で、渚にそう声をかけた。

その声に、渚はまるで、見えない糸で操られている人形の様な動きで、頭をフイッと振り、
大きく見開いた目から涙を流したまま、東野さんを見た。

「どんな奴が、何を言ったんだ?」

言葉を区切る様に、もう一度渚に問いかける。

渚は、
「だから…、お水をもらいに行ったんですよ。
そしたら、下には誰もいなくて、私、自分で水を入れて飲みました。
外から人の声が聞こえるから、窓を見たら、そしたら…、
ヘルパーさんの格好した、アレがいたんですよッ!

最初は、普通な感じだったのに、だんだんおかしくなって来て、よく見たら、全部フジツボで…、私は、怖くて、怖くて、ここまで、、、」
そこまで言うと渚はまた、自分の体を見やり、擦りながら、ヒッヒッと息をしたかと思うと、ハァッーッと息を吐き出し、
大声上げ、泣き出した。

東野さんは渚の肩を抱き、
「怖かったな。分かった。」とだけ言うと、
潮に布団を引く様に言った。
潮の引いた布団に、渚を横にさせ、
「渚、皆んなここにいる。安心しろ。
明日、島に行って、何が起きてるのか確認しよう。大丈夫だ。」

それだけ言うと、大きく見開いたままの渚の目に、手を当てた。
しばらく、渚のしゃくりあげる声が聞こえていたけど、
やがて、泣き疲れたのか、スースーと寝息が聞こえて来た。

ジワっと、腕に力が戻った様な感じがしてそちらを見ると、私の腕をしばりあげる勢いだった八月が、ようやく力を緩め、それでも離れはしないと行った様子で、私の手を握っていた。

「今夜は…」
そう声を出した東野さんを、
私と八月、それから潮が見つめる。

「今夜はこの部屋で、皆んなでいよう。
この様子じゃ、渚もいつまた、起き出してしまうかも知れないし、かと言って1人にさせるわけにもいかない。
女だけでここにとも、言えないしな。」
チラリと、八月を見やりながら、東野さんがそう言って、渚のなる布団から少し離れた場所に、壁にもたれるように座り込んだ。
それに習うように、私たち3人も、輪を書くように座った。

「どう言うことですか?全く、分かんないんですけど。
渚の見たフジツボの奴って、何なんですか?
あいつなんで、水飲みに行って、泥だらけの靴で帰って来て、あの手と口の周り…、何ですか?」

…何も、考えがまとまらない内に起きたおかしな事…。
潮が漠然とした質問を東野さんにポソリと投げかける。

「…わからんな。
ただ、渚は、覚えてないだけで、どこかに行ったんだろうな。行って、何かを…、
食べた…。

それも、生のままだろう。

途中で我に帰ったのか、ここまで戻って気づいたのかは分からないが、あいつの手や口についてるのは、アレは間違いなく血だ。さっき、渚に近づいたら、プンプン匂ってた。

靴汚れてるのも、どこかに、行ったからだ。

どこだ?どこに行ったんだ。
いつ行った?そんなに時間は無かったはずだ。」

ウグッ!と音を立て、潮が口元を押さえた。

潮だけではない。私も八月も、薄々気づいてはいたが、
はっきりそう伝えられたことで、喉につっかえるものを感じていた。
八月に至っては、顔色が悪い。

弱々しい声で、
「気分が悪い…」そう言い、潮と同じく口元を押さえた。

「俺がついて行く。七月と潮は、渚を見ててくれ。」と、
東野さんが立ち上がった。
私にタオルを1枚よこすように言い、それを手渡した私に、
「何かあったら、大きな声で呼べ。
渚が起き出しても、無理に止めたりするな。」
淡々とそれだけ言うと、
八月を連れ、部屋を出て行った。

静まり返った部屋には、渚の寝息だけが響いている。

渚の方を見なければ、
気持ちよさそうに眠っているようにしか、感じられない。

東野さんがタオルを持って行ったのは、渚の手や口についたたままになってる血を拭いてやるつもりなのだろう。

ふと、自分のカバンの中に、ウエットティシュが入っていたことを思い出し、立ち上がった私に、潮が、
「お前も気持ち悪いのか?」と聞いて来た。

「平気、潮は?大丈夫なの?今なら、渚もよく寝てるみたいだから、私だけでも平気だよ?」と言うと、
「いや、さっきより、マシ。落ち着いた。」そう答え、
ハアーッと、大きく溜息をついた。

分からなくもない。
何も、何も自分では分からないままに、似て異なる伝承を3つ聞かされ、語った1人は病院に送られ、さらに東野さんの憶測が重なり、
真相は明日と心決めた途端、友達がおかしなことになってしまった。
「本当に明日、島に行ったら、解決するのかな。
おかしなことに、これ以上なったらどうするの?
私達だけで、何とかなるの?」
不安でしかないこの状況、口にせずいられなかった。
「分かんね。全然、俺、頭、着いてこない。でも、このまま、何にも知らない顔も、もう、出来ない。行って、分かることがあるなら、何とか解決策もあるかもしれない。」
潮は、静かな声で答える。
黙ったまま、渚の手を拭く。
赤黒い血が乾き、こびりつき、拭くために与えた水分を吸って、
また、鉄の匂いが湧き立ち、そこに、かすかにだが、
磯の香りもつきまとう。

「渚が食べたものって…」、言いかけた私に、
「言うな。想像するな。落ち着いたのが、また上がってくる…。」
潮は苦い顔をして、止めて来た。

私もそれ以上は何も言えず、黙ったまま、渚の手を吹いていた。

しばらくすると、東野さんと八月が部屋に戻って来た。
「誰もいない。園さんの姿も見えない。
外を覗いてみたが、誰かがいる様子もない。」

そう言いながら、手渡して来た濡らしたタオルを、東野さんから受け取り、
拭き取れてない箇所の血を拭いて行く。

八月は、鼻をかすめるかすかな匂いが耐えられないのか、それとも単純に怖くてなのか、
私の側ではなく、東野さんの少し離れた位置に、膝を抱いて座っている。

「明日、島に行ったからと行って、すんなりことが進むとは限らない。今は少しでも体を休めて、頭を整理させろ。どうなったのか、どうなるのか、は、明日からだ。今は、頭を整理して、ここに来てからの事を其々が整理するんだ。
それと、これから何があったとしても、1人では行動するな。どんな事でも、必ず誰かと一緒でないと行動するな。」
東野さんの言葉に、渚以外の私達3人はうなづいた。

待てど暮らせど、誰かが私達を呼ぶことはなく、
私達以外の人の気配を、感じる事さえなく時間が過ぎていく。

夕飯にもありつけず、何か作ろうと、
今度は、私と潮が台所に行くことになり、
炊いてあったご飯でおにぎりを作り、置いてある鍋を見ると、中には魚の煮物があり、とても良い匂いがしたが、食べる気になれなかった。
結局、味噌汁と作ったおにぎりを持って、また部屋に戻り、渚以外の4人でモソモソと食べる。

東野さんは、何も話さず、ただずっと、何かを考えているようで、
八月は、食欲がないと、あまり口にせず、また膝を抱いて丸まってしまった。
潮は、思い悩んだ顔で、ずっと俯いている。
私は立ち上がり、八月の横に腰を落とした。
八月は不安げな顔をして私を見て来た。
私もきっと、頼りなげな顔をしているだろう。

分からないのだ。何が起きたか、何が起きるのか、どうしてなのか、なぜなのか…、
考えるなと言われても、やっぱり何故か、と、考えてしまう。

2人横に座り、八月は私の手を握って来た。
私も、八月の手を握り返す。
どちらの手の温かさなのか分からなくなり、心が落ち着く…。
同時に、眠気が襲って来た…。

今はもう、何も考えず、このまま、眠ってしまおう

ちらりと目だけで横を見ると、八月も目を閉じている。
手は繋いだまま…。

それだけを確認し、私も目を閉じた…。

私と八月が寝ているのを、誰かが覗き込んでる…

誰?
潮か東野さん?

それとも、渚…?

部屋の電気を背にして、覗き込む人の数が、
1人…、2人…と、増えて行く…、

誰なの…?…、

…歌が、…聞こえる…

湧いてくる、湧いてくる…
巌田の家の…

おばあさんの聞かせてくれたあの歌…、歌ってるのは、誰なの…?

鬼灯一つに、瓜二つ…、

歌に合わせて、ゆらりゆらりと、人の数は増えて行く。

やがて、前後左右と体を揺らし、まるで、波に揺られる海藻のように、歌に合わせて動き出す…、

…貢物さえ捧げときゃ、
あやかし、巌田の守り神…、

あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ

誰かの声なのか、大勢の叫び声かも分からない…、

ギラッと、眼に刺さるような光が走り…、

その後は、真っ暗…、
………、
何?聞こえない、何て言ってるの…?

「七月!七月!起きろ。」

東野さんの声で、眼を覚ますと、外にはうっすら朝が来た所のようだった。

昨日の夜の、あれは、誰だったんだろう…

「用意しろよ。八月も起きて、もう顔を洗いに潮と下に降りた。戻って来たら、俺たちが行く。
用意をしたら、出発だ。」

虚ろな頭で、

昨日のおかしな出来事や、これから不可解な事に向き合わなければいけない現実に、ノロノロと戻って行く…。

誰かに何かを、最後に言われた気がする…、

何を言われたのだろう…、

私達に…、何かを言ってた…

いや違う…、

私…、私に?

私だけに、誰かが何かを囁いた…、

何て、言ったの?

聞こえなかった…?聞こえてた…?

分からない。どっち?

とても大切なことを、言われた気がする。
何だったのだろう。
誰だったのだろう。

ゾクッと、背中に寒気が走り、気づくと私は完全に目が覚め、頭も冴えていた。

島に着くまでに、思い出せるだろうか。

とても大切な事を、私は誰かに言われてる…。

返信

私達が宿に辿り着いたのは、西に沈む丸い夕日が丁度全部隠れるくらいだった。
男女で部屋を分けられた宿の四角いからは、茜色というよりは淡い橙色の光が、藍色の空に混じるように滲んで見える。
その藍色の空間に一際大きく輝いているのが金星だろう。宵の明星、ヴィーナス、地球と双子の星と呼ばれる事もあり、八月が好きな星だ。
八月、私の双子の妹、その八月は今、私の右腕をぎゅうぎゅうと握り締めている。
本人に自覚は無いが、旅行サークルオカルトの部に入ってから、八月の握力は日増しに強くなっている。この前に至っては、くしゃみの勢いでスチール缶をへこましていた程だ。そんな妹の締め付けを受け、私の右腕はじょじょに鬱血し始めていた。指先が冷たい。
オーケーオーケー、八月は私が冷静にいられるようにしてくれているんだよね。うん、我ながら思い遣りに溢れた良い子に育った、うん。
「八月良い加減手離してやれよw七月の顔が険しくなってるぞww」
「わわわ、ゴメンねなっちゃん!」
潮の一言多い助け船が入り、八月が力を緩める。あ、離しはしないんだ…
「大丈夫だってwあんな事聞いたから八月も怖かったんだよね……ところで潮、一体誰の顔が険しいって?」
「げっ、今のでアウトかよ!」
「当たり前よ!まだ私10代なんだからね!!!」
咄嗟に距離をとる潮、しかし右腕の八月によって動けない私は、そこのノーデリカシーを思いっきり睨みつけてやる。
「おお、こわいこわい」
潮のニヨニヨ笑いが地味にムカつく。
「潮、七月も、あまり暴れるな。園さんに迷惑を掛けるんじゃないぞ。」
またも東野さんに嗜められてしまった。隣の八月も少し罰が悪そうに俯く。

分家のお婆さんが救急車で運ばれ、私達はこの宿に戻ってきた。その道すがら、潮が録音したレコーダーに謎の声が入っているのを私達は聞いてしまった。
(しゃべったな…)
あの気味の悪い声はなんなのか、老婆の語った話は本当なのか、それを話し合おうと、少し広めの私達女性にあてがわれたこの部屋に集合したのだった。
「やっぱり私達のせいみたいだね…」
暗い声で渚が言う。分家のお婆さんが倒れたのが、私達に語った事が原因だと思っているのだろう。
「うん…」
小さく頷いたのは八月だ。
「いや、もう96歳なんだろ?いつも寝てばかりいるって言ってたし、たまたま俺たちがきたのと体の限界が重なってただけだって!」
「だとしても!私達が会いに行かなかったら体を起こす事もなかったじゃないっ!!」
潮のフォローにも渚は感情的に返した。動揺しているのかもしれない、肩が小刻みに震えている。
分家のお婆さんの家で遊んだ事があるとも言っていた、渚にとってあのお婆さんは身内のようなものなのだろう。
「…新幹線で話したあの話、禁忌だって言ったでしょ?あの話も分家のお婆ちゃんから聞いた話なの。その時もお婆ちゃん、これを聴くのは、あんた方が最初で最後じゃろうって言ってた…」
「な、ならっあのお婆さんは、決まり文句みたいにいつも最初で最後とか言ってたんじゃねぇか?ほら、ムードづくりの為とかさっ!」
「…だといいがな。」
俯く渚、そんな渚を宥めようと楽天的に考えようとする潮、だけど東野さんはあくまでも冷静だ。
「東野さん!なんでそんなこと言うんすか?!!」
潮が叫ぶ、潮だって怖いのかもしれない。本当に自分達があの話を聞いたせいであのお婆さんが倒れたのじゃないだろうかと、あの話を聞いた自分達も謎の声の主に今も睨まれているのではないかと……
「…ごめん、ちょっとお水貰ってくる。」
渚が席を立ち上がった。ぎしぎしと畳を踏みしめ襖を開けると廊下へ消えてしまった。
だれひとり動く者はいない。ヒグラシのカナカナという鳴き声が嫌に大きく反響する。
「…ちょっといいか。」
声を発したのは東野さんだ。背筋を伸ばし腕を組んだまま私達を見据える。
「ちょっと考えてみたんだがな、渚の話と園さんが語ってくれた話、そして分家のお婆さんが教えてくれた歌…一見違う説を語っているように見えるが、俺は全部正しいんじゃないかと思っている、そして全部正しく無い。」
怖い程感情の無い、真剣な表情。普段口数の少ない東野さんが何かを語る時の顔…
「渚が言った言葉を信じるなら、少なくとも歌と最初の禁忌の話はどちらも真実だ。」
渚の言った言葉、どちらも分家のお婆さんから聞いたという言葉だろうか…?
「その上で考えたんだ。まあ、ただ俺個人の勝手な解釈だから別に信じなくていい。取り敢えず聞いておいてくれ。
この三つの伝承はどれにもそれぞれ海、魚、鬼灯、刀、僧が出てくる。だが、お婆さんの歌にだけ双子という単語が出て来ない。この海が漁師町として栄える要因になったにも関わらずだ。
なのに、その双子に深く関わる鬼灯という単語と僧というワードは出てくる。少し、違和感を感じないか?これじゃあ双子と鬼灯は無関係だ。」
東野さんが何を言っているのかよくわからない。双子と鬼灯が無関係だったら何か問題でもあるのだろうか?それに…
「東野さん、分家のお婆さんの歌には瓜が出ていたじゃないですか、鬼灯一つに瓜二つって。瓜二つだなんて顔がそっくりな双子そのものじゃないかと思うんですけど。」
私は東野さんに質問する。しかし、東野さんはそれを聞いて口角を上げた。
「ああ、そうだ。この歌は瓜二つって表現を使っている。これを双子だとすれば何の疑問も無い……
だが、どうしてわざわざ双子という単語を使わない?
“双子の子”と言えば同じ5文字でテンポが変わる訳じゃあない。それに、瓜が比喩ならばそれに並列する鬼灯も比喩じゃなければ不自然だ。伝えるべき裏の意味があるのならば特にな。
つまり、七月の言う通り二つの瓜が双子を指すならば鬼灯も本来は別の何かを指し示している可能性が高い。」
「え、なんすか?結局双子は実在してたんすか?実在してないんすか?」
「遠回しな話方で悪いな潮。つまり、双子もちゃんと三つともの伝承に出てきている。そして、鬼灯と言うのは只の比喩でしかない。そもそも植物の鬼灯は有毒植物だ。そんなのが魚の姿になったって言うならそれを食べた俺たちはとっくに腹痛を起こしている。」
「それじゃあ鬼灯って何なんっすか?」
「…昔の人の間では、双子は忌子として扱われる事も多い。北嶋姉妹には悪いが、障がいを持って産まれる確率の高い双子は、村から疎まれる存在だった。ならば、鬼灯も忌まれるものを示していると考えるのが自然だ。
鬼灯は漢字で“鬼”に“灯り”と書く。鬼は歌にも出てきていたな、人に害をなす者として。
鬼といえば地獄にいるイメージが強いが、人知の及ばない禍として、つまりは災害の擬人として登場する場合もある。
熟れた鬼灯の実は、丸い種に袋状のオレンジ色のカラを被せた形を形をしている。
真ん中に丸型を秘め、灯り輝く災害…まるで隕石みたいだと思わないか?
鬼灯とは、隕石の事を指し示しているんじゃないかと俺は思う。」
「…隕石、ですか……?」
「ああ、どこか地球外から飛んできた石の塊が海の中に飛んで来たら、その衝撃波で魚は脳震盪を起こして死ぬ。もしくは落ちた隕石が何かしら有毒なガスを噴出した可能性もある。そうでなくても、隕石が崖を崩して海を汚染したのかもしれない。記録に残る不漁はこれが原因だろう。ただ待てば良かったんだ、そうすればいずれ魚は元に戻る。本当ならな……
だが、ここの海の輩は焦ったんだろう。何しろ、生活が掛かっているんだからな。
そこでたまたま近くにいた僧に縋り付いた。だがこの僧は身なりが汚く、歌にあったように売僧だ。食事を分けただけで親に叱られる程だからな、それでも一応僧は僧、本当はヤケで頼んだんだろう。近くにいて頼める僧がその売僧だけだった、それだけだ。
頼まれた方も頭を抱えたに違いない。だから適当にそれっぽい事を進言した、つまりは人柱だ。そしたら丁度生贄に最適な人間がいた。忌子として名高い双子さんだ。しかも都合良く島の占い婆も双子が特別な存在だと言い、我ながらそれらしい儀式になった。さらに、いざ実行してみれば本当に数日後から魚が獲れるようになった……実際は海の中が落ち着いただけだろうがな。」
そんな…つまり、双子は只それっぽいというだけで殺されたの?本当は殺されなくとも良かったというのに……
ふるふると身体が震えた、それが怒りのせいなのか哀しみのせいなのか私にはわからない。八月が私の腕をぎゅうと締め付ける。
いつの間にか、カナカナと鳴くヒグラシの声は遠く、まばらになっていた。
「いや、東野さん、幾ら何でもそれは話がぶっ飛び過ぎじゃあ……それに、それならなんで伝承が二つあるんすか。」
「先に言った通りこれは俺個人の考えだ、だから信じないならそれでいい。
歌と話が繋がっているとしても、話の方が二つある理由が分からないって?
おそらく、理由は二つだろうな。まず、誰かを生贄にしただなんて禍々しい話は時代と共に当人達にとって隠したい話になる。だから、表向きの単なる伝承と一部の人間だけが知る裏の伝承に別れた…それをなんで渚が聞かされたのかは謎だがな。
もう一つの理由は、この僧が原因だろうな。
二つの話の中でこの僧の扱いが明らかに違う。どちらもこの一帯を救った英雄ではあるが、一方は通りすがりの徳の高そうな僧、一方はおんぼろの薄汚い僧、歌に至っては売僧とまで言われているな。おそらく、実際は身なりも汚く金にも汚いどうしようも無い売僧だったんだろう。そして、渚が話した伝承は元々この僧が広めたんだろうな。まだうら若い女性二人を、理屈の無い生贄で殺した罪を、島の占い婆に押し付ける為に……そして自分は豊漁をもたらした英雄って扱いだ。
厳田家とこの僧の関係はよく分からんが、恐らく厳田家の中でもこの僧を敬おうとする家系と疎む家系がいたんだろうな。例えば、本家と分家とかな。
その場合、僧を疎んでいるのは分家だろう、歌の裏の意味も分家にしか伝わっていないタブーなんだろうな。だからあのお婆さんはわざわざ孤立した住居で裏の伝承を伝えようとしていた。厳田家は地獄耳だしな。
だとしたら、厳田家の本家とこの僧の関係も気になるな。案外“刀”ってワードが関係していそうだ。」
いつしか東野さんは口角を上げて笑っていた。その瞳は黒く爛々と輝き、こんな寒気のする話を笑顔で語る東野さんが、何よりも怖いと思った。
「なんにしても、まだ分からない事が多過ぎる……
明日、曲津島に行くぞ。もし鬼灯が隕石を比喩しているならクレーターなり物的証拠が残っているだろうしな。
島の住民から双子や僧の事も聞けるかもしれない。」
「は、はい…!」
潮が返事を返すが、私と八月は何も言えずにいた。
今日の夕方から一足飛びに話が進み過ぎている。それに、曲津島だけは行ってはいけないと頭の中で警報が鳴り響いていた。
「ああ、ちなみにだか、瓜が双子意外のものを指している訳じゃ無いって考えもある。」
東野さんが再び口を開いた。既に口角は下がり、無表情になっている。
「考えたくも無いが、山や森では、熊に襲われたり崖から落ちた頭の砕けた死体が出た時に、こう言う事がある…」
__トットットット……__心臓が早鐘を打つような音、ゆっくりと動く東野さんの口から音が発せられた。
「…スイカが出たってな……」
ガラッ!!
「「ひゃうっ」」
最悪なタイミングで襖が開き、私と八月の変な声がシンクロした。
少し恥ずかしくなりながらも襖の方を見ると、髪の乱れた渚が息も絶え絶えに立っている。
「な、渚?どうしたの……!?」
「あのね、さっきロビーにお水貰いに行ったの。そしたらね、窓の外にさっきのヘルパーさんがいて、ガラス越しに『分家のお婆さんが呼んでいる』って言うの、私がお婆ちゃん目が醒めたんですか?って聞いたらまた『分家のお婆さんが呼んでいる』としか言わなくて…何だか私怖くなって、ロビーからの照明で真っ暗じゃ無いはずなのにヘルパーさんの顔が黒くて全然見えないし、でもヘルパーさんが着てた服はボタンの穴まではっきり見えるの。」
渚の呼吸が荒い。けれどその双肩は全く上下しておらず肘から下だけが壊れたように震えている。
「私、暫く固まってた。どうすればいいのか分からなくてっ、そしたらね、そいつが今度は呼んでいる…呼んでいる…って、早く、早く早く早くって、だんだん叫び出してっ、顔と同じく黒い手で窓をバンバン叩き出してっ、そしたらその時気付いたのっ!そいつの顔っ、暗くて黒かったんじゃ無いのっ、灰色のゴツゴツした岩の頭に沢山の黒いフジツボがびっしり敷き詰められてたの!!!
私っ、怖くて怖くてっ、だから一目散に走って逃げてっ、ここまで逃げて来たの!!!」
ガクガクと直立したまま身体の先端だけを震えさせる渚の目は、瞼が千切れそうな程に見開いていた。
「おい、渚…」
明らかに様子がおかしい渚、そんな不安定な渚に少し言い澱みながら、潮が問いかける。
「お前の手と口元…どうしてそんなに赤黒いんだ…?それに、なんで泥だらけの靴なんか履いてるんだよ……」
ぐりん、渚の目が潮を見る。そして、リフトの様にゆっくりとした動きでガクガクと震える両手と足元に視線を這わせると、渚は崖が崩れたような悲鳴を上げた。
ヒグラシの声はもう、止んでいる……

返信

そして、二日目の夕方。
 今、私達の目の前には、布団に横たわる一人の老婆がある。
 相当な高齢との話どおり、骨格まで縮んだような小さな身体に皺だらけの顔がくっついてるのはまだ良いとしても、その異様な面相に、私達は最初引いてしまった。
 ぎょろりとした大きな目は、殆ど瞼が無いように見える。その眼球はうっすらと濁っており、死んだ魚の目を思わせる。微かに開いた口からは乱杭歯が除き、何やら凄みを感じさせる…

 話は半日前に遡る。
 朝食を終えて駄弁っていた私達のところに来た園さんが、渚に声をかけた。
「そういえばね、分家のお婆ちゃんがあんたに会いたがってるみたいよ」
「えっ?あのお婆ちゃんまだ生きてんの?」
 渚が大声で不謹慎な発言をする。
「生きてるわよ。まあ、殆ど寝たきりだけどね。96歳ともなりゃ無理ないわよ」
「もう、96かあ…」
「でも頭ははっきりしててね。渚ちゃんが、この町の昔話に興味のあるお友達と遊びに来るって聞いたら、一度みんなで遊びにおいでとか言ってるみたい。どうする」
「ふーん」
 一瞬思案顔になる渚に東野さんが尋ねる。
「その分家のお婆ちゃんてのは、渚の親戚なのか?」
「そうじゃないの。実はこの町の厳田家の分家のことなの」
 園さんが説明を始める。
「厳田家は、ずっと昔からの旧家で、この町の有力者なの。今は漁船や水産加工場、冷凍倉庫まで備えた厳田水産のオーナーだけど、古くから網元としてこの鬼灯村の顔役だったのよ。この町の人が単に“本家”とか“分家”と言う場合は、厳田家のそれを指すの」
「へえ、でも関係の無いお家の婆ちゃんが、俺たちが来るってことをもうご存知なんですか?」
潮が尋ねると園さんが笑って答える。
「田舎はね、何でもすぐに話が伝わっちゃうのよ。特に厳田家は地獄耳だしね」
「あ、でも誤解しないで。みんないい人だから。近所の子供を集めてお菓子とかくれたりするから、分家のお婆ちゃんの家にも遊びに行ったことある。有力者だけに鷹揚なのよ」
 渚がフォローする。
「とにかく皆でおいでって言うんなら顔ぐらい見せに行ったら?若い人と話すのが楽しみなのよ。それこそこの町の伝承とか聞けるかもよ」
「そうよねえ…」
園さんの勧めに渚も同意する。東野さんも含めて私達にも異存は無い…
こうして、私達は分家の老婆を訪問することになった…

 分家とは言え、有力者の血筋の割には、あまりにもこじんまりとした住居だった。毎日訪れる介護ヘルパーさん以外には、一人暮らしというのにも驚いた。なんでも本人のたっての希望らしい。
 渚以下一同が挨拶を終えると、寝たきりの老婆がゆっくりと口を開いた。
「…都会の立派な大学で学問をされてる元気な若者が…五人も…」
老婆がしみじみと呟く。
「…ひょっとしたら…」
 老婆の目に、微かな光が宿る。何かの決意、あるいは希望…それはほんの微かなものだが、年老いた生命の最後の輝きのようなものを感じさせる。
「ちょっと起こしておくれ」
「大丈夫ですか」
 付き添って身の回りの世話をしているヘルパーさんが心配そうに声をかける。
「いいから、早う…」
 ヘルパーの手を借りて何とか起き上がると、老婆は布団の上に正座する。異様な面相ながらも、弱った体をおしてきちんと私達に向かい合う姿に、一同思わず居住まいを正す。
「こんな田舎にわざわざお越し頂いて有難いことですじゃ。皆さん方が、この町の昔話に興味を持たれてると聞いての…だったら、この婆の話がほんの暇つぶしにでもなればと思うてな。双子の呪いの話も太刀魚の伝説も、勿論よく知っておる。が、今からお話するのは、この厳田の家にまつわるものじゃ…多分、この婆の口からこれを聴くのは、あんた方が最初で最後じゃろうて。ほっほ…」
 端座した老婆が幽かに笑う。
「お耳汚しになりますが、今から婆がざれ歌を一つお聞かせしましょう。厳田の分家筋だけにずっと昔から歌い継がれて来たもので、この婆も、子供時代に婆から聞いたものじゃ。短いものじゃが、まずは聴いてつかあさい…ほんなら始めます」
 軽く一礼すると、目を閉じ、低いがよく通る声で老婆は歌い始めた。潮が慌ててスマホのレコーダーをスタートする。

“湧いてくる 湧いてくる
厳田の船の行くとこにゃ
どこでも魚が湧いてくる“

“めでたやな めでたやな
可愛いややこを抱いて見りゃ
鬼灯一つに瓜二つ

“鬼が来る 鬼が来る
鬼が血刀振り回しゃ
わたしもあんたも首が飛ぶ“

“泣き別れ 泣き別れ
風来坊の言うことにゃ
鬼灯残して瓜食った“

“飛び上がる 飛び上がる
厳田のあるじが沙汰をすりゃ
墓の死人も飛び上がる“

“船が来た 船が来た
船の中身をあけて見りゃ
鯛か太刀魚シュモクザメ“

“睨みあい 睨みあい
高いお堂が睨みを利かしゃ
荒ぶる海も黙りこむ“

“ありがたや ありがたや
厳田のあるじの魂(たま)握りゃ
売僧(まいす)も毎日酒飲める“

“堪忍な 堪忍な
貢ぎ物さえ供えときゃ
あやかし厳田の守り神“

「これで終わりじゃ」
 歌い終えた老婆が一礼する。以外に短い歌に、何となく拍子抜けしたような面持ちでいる私達に向かい、老婆が話し始める。
「歌はこの通り短いものじゃ。じゃが、これには、色々裏の意味があっての…そこには栄える厳田家とこの町についての忌まわしい真実が隠されておる…」
 暗い顔で前置きすると老婆が話を続ける。
「その、真実とは……ん?」
 途中まで話した老婆は、何かに耳を澄ますような素振りをした。
「…真実…とは…」
 途中まで話すと同じ所で言葉が止まってしまう。微かに呼吸が乱れ始める。
「…真…実…し、しししししんしん…」
 意味をなさない言葉を吐き続けながら、老婆は苦し気に喘ぎ始める。視線は滅茶苦茶に泳ぎ始め、我と我が手で喉元を掻きむしり始める。
「お婆ちゃん!どうしました!」「お婆ちゃん!」「しっかり!」
 皆が駆け寄る。布団に倒れ伏してもがく老婆の口からは蟹のような泡が溢れ始めた。
 「もしもし!私、分家のヘルパーの者です!お婆ちゃんが倒れた!大至急お願いします!」
 パニック状態のヘルパーが救急車を呼ぶ…

 意識不明の老婆が救急車に乗せられるのを見届けてから、私達はその場を辞去した。とりあえず宿に向けて歩きながら、まだ一同目の前で起きたことが信じられずにいた。
「何か、あたし達の所為みたい…」
 目に涙を浮かべながら渚が悔やむ。
「そんなことないさ」
「だって、あたし達に話を聴かせる為に、寝たきりだったお婆ちゃんが無理して起き上がって歌ってくれたんじゃない!あれがきっと無理だったのよ!」
「渚ちゃん…」
その時。
「おい、ちょっと聴いてくれよ!」
 イヤホンで録音を聞いていた潮が大声をあげる。
「何よ、もう、大声出して」
「こんな時に録音聴いてるなんて不謹慎よ」
「いいから、ちょっと!」
 潮が人気のないところに皆を誘導する。
「とにかく聴いてくれよ。あの婆さんの歌、今から再生するからな」
 一同潮の周りに額を集める。周囲を気にして少しボリュームを絞り、潮は老婆の歌が終わる辺りから再生を始めた。
“歌はこの通り短いものじゃ。じゃが、これには、色々裏の意味があっての…そこには栄える厳田家とこの町についての忌まわしい真実が隠されておる… “
「この後!」鋭い声で潮が注意する。
“その、真実とは……ん?”
 そこで潮がレコーダーを止める。
「聞こえなかった?」
 緊張した面持ちで言う潮に、皆の声が飛ぶ。
「何?」「何よ?」「聴こえない」
「もう一度やるからな。よく聴いてくれ」
 少しボリュームを上げて潮が再生を始める。
“その、真実とは……”
(……)
 確かに何か微かな音が聞こえる。
「もう一度。よーく聴いてくれ」
幽かに震える声で言うと、更にボリュームを上げて潮が再生を始めた。そして今度は、私達はその不気味な音声を聞いたのである。
“その、真実とは……”
(しゃべったな…)

[続く]

返信

私達は新幹線を降り

在来線に乗り換えた

夏休みでもあるので新幹線はそれなりの混みようだった

「こっちですよ」

私達は渚に促され乗り換えホームへと歩いた

何本か路線はあるようだったが

向かう線に近づくほどに人はいなくなっていた

そして今、待っているホームには

私達を含め人は10人いるだろうか

「ここって新幹線止まる必要あるか?」

潮の言葉に渚はふたたびムッとした

渚と潮がじゃれていると

「ホームでじゃれるな」

東野さんが言う

私達のいつもの風景だ

東野さんも変わった

私達がサークルに入った時は

とっつきにくい印象があった

サークルでの話し合いでもどこかつまらなそうにしていたし

活動報告のようなアルバムでも姿を見るのは稀だった

潮が東野さんと行動を共にし、私達も側にいるようになり

いつの間にか東野さんは

1番上のお兄ちゃん、そんな言い方がぴったりになった

程なく東野さんのベクトルと旅行サークルの他のメンバーが相容れない事が分かり始め

サークル内にオカルト部などと揶揄されるグループが出来てしまった

「来ましたよ」

渚の声に顔を向けると

黄色い電車がゆっくりとホームに入って来た

3両編成の可愛い電車だった

荷物を持ち上げ電車に乗り込むと

乗客は人車両に2〜3人というところだ

渚が言うには通学、通勤電車で

夏休みのこんな時期は乗客はまばらと言うことだった

「わたしが住んでた頃わね」と、付け加えた

渚は中学生の時にこの地域から離れている

車窓には

山、田園、海と

これ以上ない長閑な風景が繋がっていた

「北嶋姉妹、南田、西浦」

東野さんの声で私達は目を覚ました

電車に揺られること1時間

東野さんを残し私達はいつの間にか眠ってしまっていた

出発が遅かったこともあり

目的の駅、『鬼灯』に着いたのは

夕方を過ぎた頃だった

ホームに降りると

風に誘われて潮の香りがした

「海の家なんて無さそうだね」

ハ月の言葉に潮もがっかりした様子だった

海と言っても

観光地と言うより漁業の町といったところだろう

観光地特有のウエルカムな雰囲気は感じない

無人の小さな改札を通ると

一台の白いワンボックスカーが待っていてくれた

「よぉー」

車から1人の女性が降りてきた

「園さーん!」

渚が駆け寄る

「遠いとこよくきてくれたね」

ニカッと笑うこの女性が

今回の旅行でお世話になる宿の女将さん

西浦園(にしうらその)、その人だった

「こんな何にも無いところ、よく来るね」

わははと笑い私の肩をポンポンと叩いた

「はいっ、乗って乗って」と

園さんの車で宿に向かうことになっていた私達はお尻を叩かれながら車に押し込まれた

車は長く緩やかな坂を下っていく

しばらく走ると道がひらけた先に海が広がってきた

やはり海はテンションが上がる

それまで疲れた顔を見せていたみんなも

わーっ、うぉー、と様々な声をあげ興奮していた

駐車場に着き車を降りてみると宿は海の近くというか

宿、道路を挟んで海

そんな感じだった

海は砂浜ではなく港だった

「少し歩けば砂浜もあるよ」

園さんはあんた達、砂浜が欲しいんだろと笑った

宿は一階が食堂、二階が民宿といった感じで

園さんは隣接する家に住んでるようだった

食堂も海で働く人達が来るのかほとんどで

民宿の方は私達が久しぶりの客のようだった

食事の支度出来てるよ、と

食堂の奥の座敷に通された

やっぱり畳は落ち着く

靴が脱げるだけで疲れも飛ぶものだ

「今、焼き物出すからね」

目の前にはお刺身や小鉢など

海への旅行を実感できる料理がいくつも並んでいる

「来てよかったでしょ〜」

渚もどうだ、と言わんばかりの顔をした

焼き魚もテーブルに並び

私達は食事を始めた

「これ太刀魚ですか」

東野さんが園さんに尋ねた

「よく、分かったね

これが鬼灯町の名産の太刀魚よ」

と、答えた

皮がキラキラと銀色に光るその魚は

焼き魚、お刺身にも酢の物にもなっていた

ちょっと待ってて、と

調理場へ下がった園さんが手にしていたのは

体長1メートルはありそうな

秋刀魚のお化けのような魚だった

口には鋭い歯が並び

鱗のないその姿はまさに太刀という名前そのものだった

「こんなの都会のスーパーじゃ見ないでしょ、
お刺身なんてここら辺じゃなきゃ食べられないわよ」

ねっ、と園さんは渚と顔を見合わせて笑った

「普通見る太刀魚より一回りは大きいですね」

釣りを嗜む東野さんも驚いているようだった

「昔々ね

この地域で魚が全く獲れなくなったことがあったらしいの

もう村人は困り果ててね

どうしようかと思っているところに

ボロを纏った僧が村に辿り着いたんだって

何か食べ物をって

村にも食べ物はもうほとんど残ってなかったんだけど

そこへ居合わせた双子の姉妹がね

自分の家から食べ物をもってきて

僧に振る舞ったらしいの

僧の事を訝しげに見ていた双子の親も勝手なことするな!って

双子を怒ったのよ

食事を終えた僧は

手を空にかざすと鬼灯の実を1つ差し出したの

これを小高い丘の土に埋めなさい

毎日お酒をかけなさい

鬼灯が育ち実の中から出たものを海に投げなさい

それだけ言うと僧は海を歩き島に渡ったらしいの

あ、その島ってここから見える曲津島なんだけどね

それで僧が立ち去った後

村人は狸、狐に騙されたって

鬼灯の実を捨ててしまったらしいんだけど

その双子の姉妹が

その実を拾って丘に埋め

バレないようにこっそりお酒もかけてたらしいの

するとね

3日もしないうちに

それは大きな鬼灯が生って

その中からは刀が出て来たらしいの

その刀を海に投げ込んだところ

大きな太刀魚が取れるようになった

これが鬼灯町に伝わる太刀魚の話ね」

園さんは手振り身振りを交えて

話を終えた

「えっ?」

4人が渚を見た

「あぁ、そうそう

そういう伝承あるのよね!」と

渚は私達の疑問を強引に断ち切り話題を変えた

東野さんは何か思案しているようだったが

私達は食事の美味しさで盛り上がり

伝承のことなど頭からは消えていた

食事を終えた私達は二階の部屋へ案内された

部屋は3つあり

2つの部屋で男性2名と女性3名に別れた

園さんは

「渚、後は任せたよ」

と、言うと下へと降りていった

荷物を置くと私達は

東野さんの部屋へと移動した

「西浦、西浦の話した伝承とはだいぶ違うな」

東野さんは静かに言った

考えてみれば渚の話は漁業の町に伝わる話にしては

余りにも残酷で

名産の太刀魚にしても

双頭の魚、なんて言われるとなんとなく気味の悪いものを想像してしまう

明るい漁師町を売りにするなら園さんの話の方が民話としても上出来だろう

私達の視線を受け流すように

渚は窓の外を見つめて言った

「だから私の話したのは禁忌だって…」

見つめるその先には

1つの島が見える

海にうつる月明かりが

道を示し

私達のいく先を暗示しているかのようだった…

To be continued

返信

昔々のお話です。
ある漁村で、双子の女の子が産まれました。
両親は勿論、村でも目出度い事だと喜び合い、皆が祝福しました。
双子が産まれて、10年が経った頃。
村で大変な問題が起こりました。
何度舟を出ても、魚が全く捕れなくなってしまったのです。
漁業で生計を立てている村にとっては、死活問題です。
困り果てた村人達は、村の外れに庵を結ぶ呪い婆に相談しました。
卦を立てた婆が語るには、

・村に産まれた双子は、徳の高い魂を持つ娘と、その魂に引かれて憑いてきた災いの娘。
・二人の内、鬼灯の痣を持つ子は災いの娘……それが村に禍をもたらしている。

それを聞いた村人達はどよめきます。
確かに……双子の妹の頬には、鬼灯の形をした痣があったのです。
禍を断つ為に何をしたら良いのか……村人達は婆に問います。
婆は静かな口調で、語りました。

・禍を断つ為に、徳の高い双子の姉の血で刀を鍛えよ。
・刀が出来たら、鬼灯の痣の妹を沖にある小島で切り殺し、バラバラにして海に撒け……決して大地に埋葬してはいけない。
・小島に社を建て、刀を奉り、怨霊封じとせよ。

……それは、とても残酷な話でした。
しかし、生きるか死ぬかの瀬戸際にいた村人達は婆の言葉に従い、島にあらかじめ社を建て、泣き叫ぶ姉を殺して刀を鍛えると、小島に妹を連れ出します。
妹を舟に乗せたのは、他所から村に移ってきたばかりの若者でした。
若者は『無事にこなしたら船をやる』という約束を村と交わして、この役を受けたのです。
若者は、幼い娘を切り殺すところまでは勢いで乗り切ったのですが、バラバラに切り刻むという段になって、自分のしている事が怖くなり、娘の体を小島に埋葬して社に刀を奉納すると、村に逃げ帰り、村人達には切り刻んで海に撒いたと嘘を付きました。

流石に幼い娘を撒いた海には出にくいと、村では三日間喪に伏し、四日目に漁を再開しました。
するとどうでしょう……
あれほど網に掛からなかった魚が、折り重なる様にバタバタと暴れているではありませんか……村人達は大喜びしました。
ところが……
捕れた魚を良く見ると、全て頭が2つある不気味な姿をしていたのです。
“双頭の魚”を見た村人達は、双子の祟りではないかと怯えました。
その恐怖を煽るかの様に、沖に出た漁師の何人かが、
『例の小島に殺して海に撒いた筈の娘が、人とは思えぬ形相で立っているのを見た!』
と騒ぎ始め、耐えられなくなった若者が嘘を告白します。
翌朝、その若者が夜逃げしたのを皮切りに、村を棄てて逃げ出す者が現れ始めました。
村は閑散として荒れ果て、残った者達も先祖伝来の地を棄てるべきか……と考え始めたのです。
丁度その頃、1人の旅の僧がこの村を訪れ、事のあらましを尋ねました。
話を聞いた旅の僧は、海に向かって経文を唱え始めたといいます。
そして3日目の朝を迎えた時、海からそれは大きな鬼灯が流れ着きます。
旅の僧はその鬼灯を拾い上げると、様子を見に来ていた村人達に、

・例の小島の見える丘に、この鬼灯を納めるお堂を建てなさい。
・近隣より双子を貰い受け、そのお堂の守として大切にしなさい。
・小島には、絶対に近付いてはいけない……ただし、もしもまた“双頭の魚”が水揚げされたら、その時は再び、贄を出す覚悟をしなさい……。

と、語りました。
村人達は藁にもすがる思いで、旅の僧の言葉に従います。
すると再び、普通の魚が網に掛かる様になり、少しずつ新しい住人も増え始め、村は漸く平和を取り戻したのです。

……しかし…
件の小島の周りに舟を出すと、時折人影を目にする事があるそうです。
その人影は幼い少女の姿をしているのだとか……
海に撒かず、大地に埋葬された娘が、さ迷っているのではないか……と、村人達は囁き合い、件の島はやがて『曲津島(マガツジマ)』と呼ばれる様になったといいます。
昔々のお話です……。



「……っというのが、私の故郷・鬼灯町に伝わる昔話!どう?なかなかの迫力でしょ?」

先程までの語り口とうって変わり、西浦 渚(ニシウラ ナギサ)は弾んだ声で私達に笑いかける。
友人の問い掛けに笑顔で返してやりたいが、隣に座る妹の八月(ハヅキ)に力一杯握り締められた腕が痛くて、顔が引き吊る。
八月に悪気は無く、純粋に怖がってすがり付いているだけなのだ。
そこは良く分かっている。
だからこそネーチャンは耐えているのだが……

「八月、七月(ナツキ)の腕が太ましいからって、絞め過ぎw」
「わわわッ!?ゴメンね、なっちゃん!!」

南田 潮(ミナミダ ウシオ)のニヨニヨ笑い付きの助け船に、漸く八月の腕が緩む。
普通に「絞め過ぎ」だと伝えてくれれば良いものを、こいつはいつもこんな調子で一言多い。

「大丈夫、気にしないで八月w……太ましいってなんだ、コラ!潮!!!」

八月に優しくフォローを入れて、慌てて飛び退く潮を睨み付ける。
悔しいが潮の退避した位置は、射程距離外だ……最近、ますます逃げ足が速くなった。
昔はこいつの軽口には、連撃でKOしてやったのに。
私達……北嶋 七月(キタジマ ナツキ)と八月(ハヅキ)の双子と、潮は家が近所の幼馴染みだ。
小中は一緒、高校は3人バラバラに進んだが、何の因果か大学で再び集結して同じサークルに所属している。
と言っても、別に示し合わせた訳ではない。
私が八月を誘ったのは事実だが、潮とはサークルで顔を合わすまで同じ大学にいる事さへ知らなかった。
私は私で、この【旅行サークル・オカルトの部】というふざけた名前のサークルに興味があった訳ではなく、高校からの友人である渚にせがまれて、席を置く事になったのだ。
そして潮はというと……

「北嶋・姉、南田、騒ぎ過ぎ…公共の乗り物で騒ぐな。」

東野 真砂(トウノ マサゴ)に軽く嗜められ、私はググッと押し黙る。
新幹線の中だという事を失念していた恥ずかしさもあるが……駄目だ……この人には、敵わない。
一方の潮は何故か嬉しそうに、ウッスッ!っと元気な返事を返している。
東野さんは潮の高校の先輩で、潮曰く『リスペクトしている』らしい。
在学3年目、現在は2回目の2年生だ。
そもそも普通の旅行サークルに入った私達が、オカルトツアーばかりに参加する嵌めになった原因がこの人と親しくなった事にある。
得体の知れない迫力と、とんでもない行動力を併せ持つ東野さんのベクトルが、常に恐怖を求める方向に向いているせいで、他のサークルメンバーが好んで参加するキャッキャwウフウフwwの出会い系旅行は、縁の無い物になってしまった。

「西浦、今もそのお堂と島は存在するのか?」

東野さんの問い掛けに、私達の視線が渚に集まる。
そこで漸く渚がムクれているのに気が付いた。
どうやら自分の話に注目が集まらなかったのが、気に入らなかった様だ。
ジェスチャーだけで『ゴメン!』と何度か謝ると、少しだけ気を取り直してくれたらしい。
東野さんの質問にニッコリと応えた。

「ありますよ!お堂に大きな鬼灯があるとか、島にゾンビ少女がいるとかは、分かりませんけど。」

そもそも禁忌ですからね、この話……と渚は得意気だ。
禁忌なら話しちゃいけない気がするが、渚は平気な様子だし、東野さんは興味津々だし……そもそもこの旅の行き先は、その鬼灯町な訳だし……
嗚呼、嫌な予感しかしない。
きっと同じ事を考えているのだろう……八月が不安げな表情で私を見詰めている。
私は何も起きない事を願って、窓の外の美しい海に視線を向けた。



To be continued →next runner 流れ人

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