歩行者専用道路の標識の噂

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歩行者専用道路の標識は「仲良く手をつないで道を歩く父と娘」を描いているというのが一般的な解釈である。
が、本当にそうなのだろうか?この標識を見て一度でも違和感を感じた人は居ないだろうか?
実はこの標識にまつわる一つの噂がある。

昭和三十年代後半のこと。
横断歩道の標識を新しく作ることになりそのデザインのもととなるものを、政府が一般 に公募したことがあったそうだ。
標識の絵柄を募集していると聞いて、早速Aさんは愛用のカメラをもって町に出た。
横断歩道にぴったりな被写体を探すうちに、公園で父親に手をひかれて歩く女の子に目がとまった。
これだ!
そう思った図案の担当者はその二人に向けて夢中でシャッターを切った。
仲のよい親子の自然な表情が撮れたことにとても満足していた。
そしてこの写真は見事採用されることとなった。

数日後、テレビでは誘拐殺人のニュースを報道していて、幼女を誘拐した犯人の顔がアップで写し出されていた。
それを見ていてAさんは妙な感覚に襲われた。
知らないはずの犯人の顔を知っている……。
どうしてだろう…?
どこで見たんだ…?
それもそのはず、Aさんはつい先日、その男をモデルに写真を撮っていたのだ。
Aさんが父親だと思ったのは誘拐犯、娘だと思ったのは彼に誘拐された少女だったのだ。
可哀相なことに女の子はもう生きてはいなかった。
そして彼女が殺害されたのは、皮肉にもAさんが彼女の写真を撮った次の日だった。

この噂は本当なのか?
どうやらこれは事実ではないようだ。
日本政府が道路標識のデザインを一般公募したことはなく、歩行者専用道路標識は国際連合道路標識という国際的な統一規格によって定められたものであるらしい。
ではこの噂の出処は一体どこなのだろう?
はっきりとは分かっていないがドイツ大統領の発言が元になっているのではないかと言われている。
1970年ごろ、西ドイツのグスタフ・ハイネマン大統領が「歩行者専用道路標識は誘拐犯を連想させる」と国内で当時使用されていたデザインに関して問題視し、ドイツではその後デザインが変更されている。