弾丸のようなものが貫通した頭蓋骨

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1921年、アフリカ大陸南部の内部にあるローデシア(現ザンビア共和国)のブロークンヒル鉱山で働いていた労働者が、人間の骨の化石を発掘した。化石となった人骨は頭部と手足のもので、分析の結果旧人ネアンデルタール人と同じ種類と判断され、やがてアフリカを代表する化石人類「ローデシア人」と名付けられた。

だが、どうにも妙だったのは化石の頭部側面に円形の穴があいていることだった。ほぼ完全に揃っている頭蓋骨にポツリとある、あまりに整った円形は、矢じりや石器などの原始的な武器でつけられた傷とは考えにくいのだ。獣に襲われて牙で負った傷としても実に不自然だ。言ってみれば、その穴はちょうど弾丸が頭蓋骨を貫通したような、綺麗でなめらかな痕跡だったのだ。穴と反対側の側面の骨が砕け散っているのも、勢いよく弾丸が撃たれて吹き飛んだことをうかがわせる特徴的なものだ。死体解剖を専門とするベルリンの法医学者の鑑定によると、化石にあいた穴は、殺人死体に見られる銃痕と非常に似ているとの見解だった。

しかし、このローデシア人の化石が埋まっていたのは地下18mもの深さで、その地層は約10万年前のものとされている。銃をはじめとする現代の武器がアフリカに渡ったのは過去数世紀の出来事だ。銃で撃たれた死体が数百年のあいだにその深さまで埋まっていくことは、地質学的にあり得ない。そうすると10万年前のネアンデルタール人の時代に銃が存在していたことになるが、いくらなんでも考えられないだろう。人類に文明らしい文明が築かれたのは6千年前くらいからとされている。ネアンデルタール人はせいぜい衣類をまとったり、死者に花を供える文化をもつ程度に過ぎなかった。高度な道具、しかも銃という戦争の兵器を人類がもつようになるまでには、あまりにほど遠い時代だ。まさに場違いな、オーパーツと言える存在だろう。この弾痕のある頭骨は、現在もなおイギリスのロンドン自然史博物館に所蔵されている。

このオーパーツにはいくつかの仮説がある。まずは、ネアンデルタール人の時代に銃などは当然なく、噴火した火山の岩や落下してきた隕石が、何らかの自然エネルギーが働いて銃と同じ速さで頭部を貫いた説だ。これならば丸い穴があいている理由にはつながるが、実際にそんなことが可能かは定かではない。あるいは発掘した現代人が世間を驚かせようと、遊び半分に弾痕を付けて埋め直したという説もある。オーパーツや未確認生物が誰かのいたずらで、あっけなく正体が判明してがっかりした経験は誰しもあるに違いない。しかし、この弾痕もそうかと問われれば、いたずらだとはっきり判っているわけでもないのだ。

いずれも確証がないため真相は分からずじまいだが、逆に言ってしまえば、はるか太古の時代に銃が存在していた可能性もなくはない、ということだ。われわれが猿から人への進化過程にすぎないと思っているネアンデルタール人の時代に銃があるなんて、信じられない半面なぜか神秘やロマンも感じられる。それならば弾痕のある化石が他にもたくさん見つかるべきだという声もあがるだろうが、はるか昔に何があったのか自由に想いを馳せるのもオーパーツの大きな楽しみと言えるだろう。