アンティキティラ島の機械

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1901年、地中海に位置するクレタ島とペロポネソス半島の間にあるギリシャのアンティキティラ島、そこに沈没していた船から複数の歯車からなる腐敗した機械が見つかった。この機械は発見された地から「アンティキティラ島の機械」と名付けられ、多くの研究者を魅了するオーパーツのひとつとされている。沈没船からはこの機械以外は発見されず、数十年その存在について謎が多かった。当初は歯車を使った玩具の部品の一種であると推測されていたが、研究が進むにつれ、その複雑さや精巧さにより、玩具を超えた技術工芸品の部品の一種であると判明した。1世紀におよぶ研究の末、2006年に研究者達によってこの機械は「古代ギリシアに製作された歯車式機械」と結論付けられた。遡ること2100年前の紀元前150年から100年の間、古代ギリシャで天体観測の計算機として、ストア派の哲学者であるポセイドニオスが中心となって設立した天文学と数学のアカデミーで製作されたと推測されている。機械の技術には古代ギリシャの天文学者であるヒッパルコスの理論が応用されているとし、太陽や月、その他の天体の観測を計算する機械として使われていたとされている。歯車には天体に関する表記以外に暦の周期に関した目盛りが彫られており、天体の動きによる暦の計算に使われていたと推測されている。ギリシャといえば近代オリンピックの聖地として知られており、古代オリンピックも現在と同様に4年に一度開催されていた。数ある競技祭典の中でもオリンピックは最大級の競技祭典であり、古代ギリシャ人にとっては重大なイベントであった。どうやら、アンティキティラ島の機械は古代オリンピックと関係しているようだ。2008年に機械の一部の青銅の表示板にオリンピックを意味する「Olimpia」の文字の刻印が発見された。それまで古代ギリシャでは古代バビロニアから受け継いだ暦の計算法があったが、この機械を使うことで天体の動きからもっと正確な暦の計算をしていたとされている。そのため4年に一度のオリンピックの開催日を正確に告げるための機械として使用されていたと考えられている。
長年の研究からアンティキティラ島の機械がどのような用途で使用されたかわかってきたが、この機械がオーパーツと称される所以は他にもある。アンティキティラ島の機械は古代に作られたとは思えないほど精巧に作られていることである。古代ギリシャでは数学や天文学の研究が盛んに行われていたが、この機械には当時の研究では知られていなかったであろう知識がこの機械には使われている。一つは月の軌道である。天文学の研究が盛んであり、機械には天動説の理論が使われていることから、月が地球の周りを軌道していることは当時でも知られていた。しかし、月が楕円状に軌道しているとは当時の研究でも明らかにはなっていないが、実際の機械の月の軌道を計算する歯車は「遊星歯車」と呼ばれる楕円状になっており、月の正確な位置を計算できるように設計されている。もう一つはアンティキティラ島の機械は閏年も含めた正確な暦を計算できたことである。閏年が表記された暦は、この機械が製作された約100年後の「ユリウス暦」であり、制作された当時は閏年の計算はされていなかった。それに加え、ユリウス暦が成立した後もしばらくは暦のズレが生じていたのだが、アンティキティラ島の機械は正確な暦を刻むことができたのである。上記のことから、オーバーテクノロジーとしか思えない技術が盛り込んであるため、アンティキティラ島の機械はオーパーツの一つと数えられている。いったい誰がこのような精巧な機械を製作したのか、またどこで製作されたのか、まだはっきりとはわかっていない。古代のロマン溢れるオーパーツはいまだに研究者達を悩ませている。