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1940年、パナマ・コクレ地方の遺跡から、大量の黄金細工が発見された。地下にある墓所から発掘され、ほとんどが動物をモチーフとしていた。だが、一つだけ判別できない、奇妙な形をした像が含まれていたのだ。
それは全長約12cmほどで、背中にはエメラルドが埋め込まれている。初めはジャガーかワニを象っているとされたが、尻尾に歯車、背中が平ら、ワニにしては胴が短い、また、足の関節が全て逆に付いているという謎が残った。さらにこれらのことから、動物学者のアイヴァン・サンダーソンは「これは明らかに土木工事用の機械がモデルとなっている。しっぽに見えたのは掘削用のアームで、先端にあるのは歯車動輪付きの鋤、逆になった関節は重い車体を支える緩衝装置の役割をする。つまりこれはブルドーザーのような大型の機械の模型である」という説を立てた。更に、「実際は動物の形をしていたわけではないが、初めて建設機械を見た古代人にはそれが未知の動物のように見えた。そして制作していく過程で、動物と機械それぞれの要素が混じって、このような像に仕上がった」との見解を示している。
この像が作られたのは、西暦500年から800年とされている。同じ黄金細工で有名な黄金ジェットは、同時期に隣のコロンビアで作られた。どちらも機械を象っていることから、文化を共有する文明間の交流があったとは考えられないだろうか。また、この像に使われているエメラルドは、コロンビアが主な採掘場所である。それが、パナマにも流通していたということは、何らかの交流があったことが見て取れないだろうか。エメラルドは他のプレ・インディオ期の遺跡からも見つかっており、彼らの行動範囲はとても広かったことがうかがえる。
先コロンブスの時代、パナマにはインカ、マヤ、アステカのように高度な文明はなかった。コクレ地方では豊富な黄金細工の文化が特徴となっており、打出し細工、溶接、合金、鍛造、ロウ型法、酸を使った一種の鍍金技法などの技術を使って、様々なモチーフの黄金細工を作り出してきた。しかし、そのような文化の背景で、ブルドーザーという発想はどこから生まれたのだろう。まして、インカとマヤ文明には歯車や車輪を使う文化はなかった。おまけに、小高い山にピラミッドを築いた。機械を使ったという記録は残っていないが、果たして本当に人力のみで作られたのだろうか。全くモデルがないところから、このように機械的なフォルムの発想をするのは非常に難しいことだろう。
機械を模したものは様々なところから出土している。メキシコ・ウシュマル遺跡からは、車輪や歯車のような遺物が。同じくメキシコのチェチェンイツァの神殿外壁からは、一回り大きい歯車を挟んだ二つの小型歯車のレリーフが。そしてホンジュラス・コパン遺跡では、石に刻まれたギアボックス状の不思議な遺物が見つかっている。これらが何に使われていたかは不明だが、このような機械を実際に目にしていた可能性も否定することはできない。また古代には、現代の技術を遥かに凌駕する何かが、未だ秘められているのかもしれない。
この像は現在、アメリカ・フィラデルフィア州のペンシルバニア大学資料室に収められている。