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江戸時代中朝、吉宗が享保の大改革を推し進めた頃に出回ったとも、
江戸末期から明治初期、維新の風が吹き荒れる頃に出回ったとも言われる、怪文書である。
 今より五代二五〇年を経て、世の様変わり果てなむ。切支丹の法いよいよ盛んになって、空を飛ぶ人も現れなむ。地を潜る人も出て来べし。風雨を駈り、雷電を役する者もあらん。死したるを起こす術もなりなん。さるままに、人の心漸く悪くなり行きて、恐ろしき世の相を見つべし。
 妻は夫に従わず、男は髪長く色青白く、痩細りて、戦の場などに出て立つこと難きに至らん。女は髪短く色赤黒く、袂なき衣も着、淫りに狂ひて、父母をも夫をも其の子をも顧ぬ者多からん。万づ南蛮の風をまねびて、忠孝節義は固(もと)より仁も義も軽んぜられぬべし。
 斯くていよいよ衰え行きぬる其の果に、地、水、火、風の大なる災い起りて、世の人、十が五は亡び異国の軍さえ攻め来りなむ。
 此の時、神の如き大君、世に出で給い、人民悔い改めてこれに従い、世の中、再び正しきに帰らなん。其の間、世の人狂い苦しむこと百年に及ぶべし云々。
要するに、この世がこれから先250年の内に大いに乱れ、正にキリスト文明の勝利ともいえる世界が実現する、と云うのである。
この予言書を匿名の提供者から手に入れたと云う、友清勧真(1888-1952)は、江戸時代からこの書が「怪文書」として、世俗的な扱いを受けてきたと分析している。
ただし、「怪文書」のさだめとして、その著者や成立年ははっきりとせず、実体が無いため、学術的な価値はゼロである。
しかしながら、この予言が恐ろしいほど当たっていると思うのは私だけでは無いはずだ。
二度の大戦の様子、そして現代の風俗を見事に言い当てている。さらに、不気味なのはその後、異国による侵略を予言していることである。
不気味な説得力と週末的な予言という、「怪文書」のお手本のような「をのこ草子」は、未だ見つかってはいない。これを著した者は、天の終りを知らぬ現代人を、草葉の陰から笑っているに違いない。