バジリスク(バシリスク)

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バジリスクとは、砂漠に棲息するとされる想像上の生物である。頭に王冠を思わせる白い文様のある蛇(またはトカゲ)の姿をしており、全身のあらゆる箇所に毒を持ち、直接触れることはおろか、呼気に触れただけで死ぬと云われる。
バジリスク(Basilisk)の名は、ギリシア語で「小さな王」を意味するbasiliskosに由来し、「蛇の王」を意味するとされる。
中世以降には、コカトリス(Cockatrice)と同一視されるようになり、眼が合うだけで死ぬとまで云われるようになった。

【バジリスクの毒】
バジリスクに関するもっとも古い文献は、紀元一世紀、古代ローマの学者プリニウスの著書『博物誌』である。
それよるとバジリスクは、アフリカのキレナイカ地方の砂漠に生息する、体長12インチ(約30cm)ほどの蛇であり、頭には王冠を思わせる白い文様があり、つねに身体を立てて進むという。また、「シュッ」という音をたてて、ほかの蛇たちを退散させると云われる。
このプリニウスの記述から、バジリスクの起源をコブラだとする説もある。実際、アフリカには毒を飛ばすドクハキコブラが存在し、これがモチーフとなった可能性も指摘されている。

また、その毒性は強烈で、直接触れることはおろか、呼気に触れただけで藪は枯れ、草を焼き、石を砕くとも云われる。
バジリスクの通った跡には人を死に至らしめるほどの毒液が残り、水を飲んだ後のせせらぎは何世紀にも渡って毒の水が溢れ、草一本育たないという。
さらには、ある者が馬に乗ったまま槍でバジリスクを殺したところ、槍を伝ってたちまち毒が回ってしまい、乗っていた馬までが死んでしまったという逸話もある。
また、地を這っているだけで空を飛ぶ鳥を殺すとも云われる。

尚、リビアや中東にある砂漠地帯は、そこを棲みかとするバジリスクの毒の力によって砂漠となったとまで云われている。

【バジリスクの誕生】
エジプトの伝説によれば、イビスというトキに似た鳥は、蛇をよく食べるという 。その食べた鳥の体内で卵が育ち、バシリスクが生まれたという。
また、中世以降にコカトリスと同一視されるようになると、雄鶏の産んだ卵をヘビかそれに類する生き物が孵化させると、バジリスクが生まれると云われるようになった。

【撃退法】
中世以降、バシリスクの毒性はより強力なものとされ、その強力な邪眼によって見られただけで生物は死んでしまう(もしくは石化する)と云われた。そのため、鏡によってバジリスクの視線を反射すると、バジリスク自身も死んでしまうという。
また、雄鶏の鳴き声を聞くと一目散に逃げ出す、もしくは発作を起こして麻痺するか、身もだえして死んでしまうという。これに関しては、バジリスクの出生の秘密が関係していると云われている。
また、イタチの臭気はバジリスクにとって最大の毒であるという。 イタチの穴にバジリスクを投げ込むと、イタチ自体も死んでしまうが、その臭気でバジリスクも死ぬと云われている。これに関しては、イタチにはバジリスクのあらゆる毒が効かないとする説もある。
尚、強力な毒性によりあらゆる植物を枯らしてしまうバジリスクだが、へンルーダという薬草だけは枯らすことができないという。イタチはヘンルーダを持っているために、バシリスクに対抗できるとも云われている。

因みに、盲目の人はバジリスクと視線が合うことがないため、飼い慣らすことも可能だという。
アンティオケのプロータイナスは生まれつき目が見えなかったが、砂漠でバジリスクを見つけて飼い慣らし、その目にフードをつけさせることに成功したといわれる。プロータイナスは飼い慣らしたバジリスクを町まで連れてきたが、雄鶏の鳴く声を聞いた途端、バジリスクは悶絶して死んでしまったという。

【バジリスクとコカトリス】
中世になると、バジリスクはコカトリスと同一視されるようになる。
コカトリスとは、14世紀頃に中世ヨーロッパで誕生した想像上の生物であり、鶏と蛇(もしくはトカゲ)を合わせたような姿の怪物である。頭には雄鶏のトサカ、身体には黄色い羽毛、翼にはトゲがあり、蛇のような尾の先は鈎型、もしくはもう一つの雄鶏の頭になっているという。
その能力は、触れた者はもちろんのこと、見たり、息を吹きかけたりするだけで相手を殺す(石化する)という恐ろしいものである。

バジリスクとコカトリスが同一視されるようになった経緯に関しては、バジリスクが雄鶏の鳴き声を弱点とすることが誤って伝わったためとも、能力の類似性のためとも云われている。
二つの関係としては、全く同一のもの、あるいは雌雄関係にあるものとされており、古来のバジリスクの姿とはかけ離れているにも関わらず、コカトリスはバジリスクの別称として用いられるようになっている。

また14世紀になると、ジェフリー・チョーサーが『カンタベリー物語』において、「バジリコック」という名前でバジリスクを登場させているが、これはバジリスクとコカトリスとを合成したものだと云われている。

その後、バジリスクの恐ろしさに関する記述は次第に過激になり、巨大な怪物の姿で描かれたり、口から火を吹く、視線を合わせた者は石になる、声を聞くと死ぬ、などと云われるようになったという。

【備考】
1768年に発見されたイグアナ科の生物は、バジリスク(本来はコカトリス)を思わせるトサカを持っていたため、バシリスクと名付けられている。バシリスク属には、ブラウンバシリスクやグリーンバシリスクなどがいるが、いずれも毒性はないという。

バジリスク(コカトリス)の眼に石化能力があると云われることから、同じく石化能力をもつギリシア神話のメデューサと関連付けられることもある。
ペルセウスがメデューサを退治して帰る途中、メドゥーサの首から砂漠に滴り落ちた血は蠍や毒蛇に変わったと云われるが、このときメデューサの血から生まれた毒蛇がバジリスクであるという。
しかし、バジリスクの石化能力は中世以降に後付けされたものであり、メドゥーサとの関連も後付けされたものだというのが一般的な見解である。