「黙示録の獣(Beast)」は新約聖書の最後を飾る、人類の破滅と世界の終末を描いた「予言」の書「ヨハネの黙示録」に登場して来る巨大な獣。
天より落ちた「竜」の支配下に置かれた破滅の代行者であり、世界を42ヶ月間に渡り支配する権利を持ち、凡る聖人を打ち倒す力を持つと云う。
一般的に獣の数字と呼ばれる「666」の刻印を人々に刻み、神を冒涜する言葉を吐かせ、背徳的な行為に向かせるとされている。
背にバビロンの大淫婦を乗せているとも云われ、これらは共にキリスト教徒を迫害した古代ローマ帝国、或いはその皇帝達の風刺であるとされる(以下は後述)。 「頭に角が一本ずつあって、残り三つの頭は何もなくツルツルなのか?」とか、「七つの頭に十の王冠ということは、一つの頭だけ王冠を三つ重ねて被ってるのか」
なんて疑問と共にギャグ染みたシュールな光景も7頭を過るが、この獣は至って真面目な存在である。
【第一の獣】
出展不明(※現在ではイエスの使徒ヨハネと「黙示録」を記したヨハネは別人とされる)の「ヨハネの黙示録」に於いて、 第七の御使いがラッパを吹いた後に出現する異形の存在。 「竜(サタン)」の地位と力と権威を代行する存在とされる事から、反キリスト(偽りの救世主)の化身ともされるが、
元々の記述が曖昧な為に明確な答えは出されていないのが正直な所である。 「七つの頭」と「十の角」を持ち、それぞれの頭に王冠を被り「神を穢す名」を持つと云う。 獣」は「竜」自身では無いのだが、図像に顕される場合には七つ首の赤い竜として描かれる。 「太陽を着たりて、月を足の下にする女」=大淫婦に付き従うともされるが、単に「獣」を反キリストの化身として背徳の支配者と見なす場合も多い。 「七つの頭の一つが致命的な傷を負っても直ぐに回復した」等の記述から、異常な能力を持つ怪物の姿が想像出来るが、
この獣の名である「666」はローマ帝国の暗喩であるともされており、現在の主流となっている。
「666」をユダヤの密教「カバラ」に由来する「数秘術(ゲマトリア)」で読み解いた結果であるとの事であり、
七つの首を歴代の王に喩えた記述からも元来の目的としての風刺が見て取れるともされる。
一方で、この「666」を反キリストの到来=実在の暴君と見なす行為も人気があり、
第5代ローマ皇帝ネロ、古代バビロニアのネブカドネツァル、ナポレオン、ヨシフおじさん、ヒトラー、浜田じゃない方のダミアン、
キリストの代理人たる筈のローマ法王(ヴァチカン)もまた無理矢理なこじつけにより「666」と読み解く事が出来るのだと云う。 「666」は「獣」が人々を支配する権利を公使した際に押された刻印でもあるが、この「666」がバーコードに仕込まれているとする都市伝説は定番ネタであった。
尚、近年ではURLの頭に付く「WWW」も「666」と読み解ける事が判明。 ……「悪魔」の世界支配は着実に進んでいる様で何よりである。 余談となるが、一般的に「獣」は「Beast」とのみ呼ばれるが、
かの大魔術師(意味深)クロウリーは自らを「黙示録の獣の王(Master Telion)」と称し、放埒な振る舞いをした。
【第二の獣】
一般的に「黙示録の獣」と云えば、上記の「獣」のみを指すのだが、
「黙示録」の記述によれば人々が「獣」に支配された後に、もう一体の「獣」が現れるとされている。
それが「子羊の角を持ち、先の獣を崇拝する様に強要し、その刻印(666)が無ければ何も売買出来ない様にする」とされる第二の「獣」である。 ……上記にもある様に、バーコードやURLとの奇妙な符合により、未来型の管理社会への恐怖を煽る題材として「黙示録」が用いられるのも頷ける話である。 この、場合によっては空気扱いされる「第二の獣」の正体だが、 先に出現する「第一の獣」を反キリストの化身とする関係から、偽の救世主の力を喧伝する偽預言者の化身であると考えるのが大筋である様である。 尤も、元来は反キリスト=偽預言者であり、それも特別な力を持たない異教徒程度の意味であった様だ。 しかし、キリスト教ではユダヤとは違いイエスをキリスト(救世主=神の代行者)として神格化した。 故に、偽預言者も反キリストとして超常の力を持つ悪魔の化身と見なされる様になったのである。
【バビロンの大淫婦】
或いは「大淫婦バビロン」「ヘイバロン」とも記述される。
ゲーム『真・女神転生Ⅲ』では「マザー・ハーロット(娼婦の母)」の呼び名で「獣」に跨がった姿で登場している。 「黙示録」によれば、
「わたしは、赤い獣にまたがっている一人の女を見た。この獣は、全身至るところ神を冒涜する数々の名で覆われており、七つの頭と十本の角があった。
女は紫と赤の衣の衣を着て、金と宝石と真珠で身を飾り、忌まわしいものや、自分の淫らな行為の汚れで満ちた金の杯を持っていた。」……と記されている。 この「女」が何者なのかは、矢張り解釈が別れる所だが、
「獣」と同様に古代ローマを始めとする旧世界の悪徳の象徴であり、故に「悪魔の住処」と呼ばれるとされる意見が大勢の様である。 また、解釈によっては「黙示録」に登場する小アジアに散らばる七つの教会の堕落の象徴、神の言葉の届かなくなった世界の風刺であるともされている。 「バビロンの大淫婦」と云う単語からイシュタル女神との関連も囁かれるが、キリスト教ではイシュタルは悪魔アスタロトの起源である。
【蛇】
古代より「蛇」は生命を象徴する畏れと信仰の対象であった。
「アニヲタ悪魔シリーズ」でも繰り返されているが、古代宗教では「蛇」は神であり、ユダヤ/キリスト教で「古き蛇」とはルシファー(サタン)を示し、 そのイメージは「竜」へと繋がっていったのである。
事実、ユダヤ/キリスト教に於ける初期の「竜」は「蛇」と同義であり、翼を持たない姿で描かれていた(レヴィアタン…etc.)。 故に、エデンの園にてイブを誘惑した「蛇」とは即ちサタンであり、地に落ちた「赤き竜」と考えられたのである。 こうした欧州の「竜」のイメージが変遷したのは中世以降であり、
数々の秘教的合成によりユニークな悪魔の姿が生み出される中で「竜」は有翼の「ドラゴン」となり、翼を持つ悪魔的な存在へと転じたのである。