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マーラとは仏教において仏道修行を妨げる第六天魔王の内の一人である。
煩悩の権化であり、人々を堕落させる悪魔とされている。
騎獣は大悪魔、ギリメカラである。
由来が不明な神であり、インド神話の愛の神、カーマとも関連づけられており、カーマ・マーラとも呼ばれている。
あるいは仏教よりも古いウリガット神話に出てくる乾季と炎と死の神モートが仏教に取り込まれたものとも考えられている。
マーラが登場する書物は初期仏教の教典である『阿含経』の「悪魔相応」(マーラ・サンユッタ)である。
サンスクリット語ではマーラの意味は「殺すもの」ともされ、死の擬人化であるともされている。
漢字で訳すと「魔羅」「天魔」「波洵(はじゅん)」「悪魔」と書かれる。
原形を神話に持つため、単純な悪魔ではなく神格を持った存在としており、『天魔』という呼び名も存在するという。
仏教の開祖である仏陀の目の前に度々姿を現したのは有名な話である。
マーラは仏陀がガヤーの菩薩樹、ピッパラ樹の下で悟りを開く禅定に入った際、瞑想を邪魔するために現れた。
煩悩の化身であるマーラは、仏陀が悟りを開くと自身の滅びにつながる(煩悩を打ち消す「智慧」を世に広めることができる)ため、それを阻止すべくあらゆる妨害策に打って出た。
初め、マーラは仏陀の元に美しく性技に長けた三人の美女達を送り込み誘惑をする。
しかし、仏陀は誘惑に屈せず、美女三人は老婆なり退散した。
次にマーラは自分がもつありったけの武器と恐ろしい形相の悪魔の軍団を仏陀に送り滅ぼそうとする。
周囲を暗闇にし、竜巻、雨、真っ赤に焼けた岩、剣と槍、燃えた木炭、灼熱の灰、灼熱の砂、灼熱の泥、暗黒、円盤、灼熱の石等が次々と仏陀にふりかける。
しかし、仏陀は全く心を動かさず、武器はすべて花になり仏陀の周りを飾った。
最後にマーラは自ら仏陀のもとにやってきて「悟りを開く修行をやめれば世界一の帝王にしてあげよう」と誘惑するがこれでも仏陀の心は動かなかった。
ついにマーラは「仏陀がどんな徳によってそこに座っていることができるのか」と聞いた。
仏陀は静かに大地を指で触れると、大地の女神が現れて、「私が仏陀の徳を証明します」と宣言し、マーラと直接話すのを拒んだ。
マーラは全ての打つ手が無くなりようやく敗北を認め、仏陀は大悟・成道し、12月8日に悟りを開くことができた。
マーラは仏陀が八十歳になり、体が衰え死が近くに感じられた時にまた現れた。
仏陀が古代インドの十六大国の1つヴァッジ国内にあった商業都市、毘舎離にいた時、マーラが「あなたの弟子たちはすべて覚りの境地に達し、巧みな弁舌をもって法を説き、仏法の敵が現れてもそれを打ち破ることができるようになりました。今はもう涅槃に入られる時ではないですか」とささやいた。
若い人にとって、死は恐怖で出来れば避けたいと思う。
しかし、老人になると肉体が痛み、自由が利かなくなる。
自分はやるべきことを全てやり遂げ、悔いは無いと思う人にとって、死は安息である。
マーラは仏陀に最後の誘惑を行ったのである。
仏陀は「完全に覚りを開いたものは自分で自分の涅槃の時を決める。私は3か月後に入滅するだろう」と答え、マーラを負かすことができた。
この様にマーラを負かす(降ろす)ことを降魔という。
日本においては、マーラが仏陀の修行の邪魔をした故事から、修行僧達が煩悩の象徴として男根のことを魔羅と呼ぶ様になり、現在も隠語として使用されている。