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ティアマトとは、古代バビロニアの神話に登場する原初の水を司る女神である。
世界にまだ何もなかったときに全ての神々を生み出した母であり、最強の武神マルドゥクに殺された後には、その体から世界が形成されたとされる。
語源は「海」を意味するティアムトゥム(tiamtum)であると云われ、「淡水」の神アプスーを夫に持つ。ティアマトとアプスーは、たびたび「互いに混ざり合っていた」とされる。
その姿は、七つの首を持つ巨大なドラゴン、または大蛇の下半身をもつ女性の姿で描かれることが多いが、実際の神話に明確な記載はない。
ティアマトに関する神話は、古代バビロニアの創世記叙事詩『エヌマ・エリシュ』に刻まれている。

【エヌマ・エリシュ】
まだ何も創造されいなかったとき、世界にはアプスーとムンムとティアマトだけがいた。アプスーとティアマトはそれぞれ淡水と塩水を司る原初の神であり、その息子が霧の神ムンムである。これらの原初の神々の混合により、その他の神々が次々と、ティアマトの巨大な体から生まれた。彼らは皆ティアマトの巨大な体の中に棲んでいた。
ティアマトは多くの神々の母となったが、これらの若い神々があまりに騒々しく、夫であるアプスーと共に悩んでいた。アプスーはやがて、ムンムと共に若い神々を滅ぼそうとするが、母であるティアマトはそれに反対し、神々の中で最強だったエアにこのことを伝え警告した。するとエアは、アプスーを眠らせて殺してしまったのである。
神々の首領となったエアは、ダムキナを妃に迎え、2人の間にマルドゥクが生れた。マルドゥクは4つの目と4つの耳を持ち、神々の中で最も背が高く、他の神々の2倍の能力を持っていた。彼はエアよりはるかに強大な力を持っており、戯れに嵐を呼び起こすなどして、ティアマトの塩水の体をかき乱したため、ティアマトの中に棲む神々は眠ることができなくなった。
マルドゥクに恐れをなす神々の訴えを聞いたティアマトは、夫を殺された恨みもあったことから、恐ろしい11の怪物―七つの頭を持つ蛇『ムシュマッヘ』、毒蛇『バシュム』、蠍尾龍『ムシュフシュ』、海獣『ラハム』、巨獅子『ウガルハム』、狂犬『ウリディンム』、蠍人『ギルダブリル』、半魚人『クリール』、ドラゴン、嵐の怪物、雄牛―を生みだし、彼らに神性を与えた。そして息子キングを二番目の夫とし、キングをこの軍隊の総司令官として、エアとマルドゥクの連合軍に戦いを挑むのである。
その後、神々による壮絶な戦いが繰り広げられ、最後にティアマトとマルドゥクの対決となった。
ティアマトはその巨体で戦いに臨み、マルドゥクを飲み込もうと襲いかかった。ティアマトが彼を飲み込もうと口をあけた瞬間、マルドゥクは暴風を叩きつけて口が閉じられないようにし、ティアマトの体の中へ剣を突き刺し殺したという。
マルドゥクは彼女の体を二つに引き裂き、一方を天に、一方を地に変えた。彼女の乳房は山になり、そのそばに泉が作られ、両目からはティグリス・ユーフラテス川が生じた。こうして、母なる神ティアマトは、世界の基となったという。

【備考】
もともとは神であり、神々の母でもあったティアマトだが、恐ろしい11の怪物を生み出したことなどから、一般的には神というよりは怪物に近いイメージが持たれている。
混沌の象徴とも云われ、明確な容姿の記述はないが、複数の頭をもつドラゴンや、蛇の下半身をもつ美しい女性の姿で描かれることが多いようである。