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フンババ(アッカド語ではHumbaba/フンババ、シュメール語ではHuwawa/フワワ)は、バビロニア神話やヒッタイト神話に登場する森の守護神であり自然神である。その姿は、手は獅子のようで、髪とひげが長く伸びた、巨体で醜い怪物のような姿だったともいわれている。ただ、その姿はあくまで「人間」であって、竜や牛など、ほかの動物の面影は見られないようである。

『ギルガメシュ叙事詩』によると、その身の3分の2は神、3分の1は人間だという荒くれ者の若きウルクの王ギルガメシュと、戦いの神ニヌルタから力を授けられた最強の野人である友人エンキドゥが、遠方にあるレバノン杉の森へ遠征し、森の怪物フンババを倒して、杉の木を切って運んでくることを決めた。しかし、フンババはエンリル神からレバノン杉の森を守るよう任命されていて、その叫び声は洪水、口は火、息は炎であると言われており、ウルクの長老たちやエンキドゥは、それは決死の覚悟がいることであり、祟りがあるからやめておけと、フンババ退治を押しとどめようとした。ところが、ギルガメシュの決心が揺るがないので、エンキドゥもしぶしぶ一緒に行くことにした。

森の中へと分け入り、斧で杉を切り始めると、その音に気づいたフンババがやってきて、怒り狂って襲いかかってきた。2人はフンババの恐ろしい姿に腰が引けてしまう。想像以上の難敵だった。そこで、ギルガメッシュが祈って、太陽神シャマシュらに加勢してもらい、8つの烈風(大なる風、北風、南風、つむじ風 、嵐の風、凍てつく風、怒涛の風、熱風)をフンババに浴びせて、視線の石化の魔力を封じたため、フンババは動けなくなって体力を奪われた。その威力にフンババはついに降参した。そして、「あなたの家来になり、杉の木々も差し上げるから、命だけは助けてくれ」と懇願したが、エンキドゥが生かしてはならないと言うので、2人で首を切り落として退治した。フンババの倒れる音が森中に響き渡った。その首をいかだに乗せ、ユーフラテス川に流したという。そして、2人は揚々とウルクにレバノン杉の木を運んで凱旋し、たくさんの建物を建設したのであった。

その後、さまざまな事柄に加えて、フンババを死へ追いやった張本人であることが原因で、ギルガメシュとエンキドゥは神々の怒りを受けてしまった。そして、2人のうちエンキドゥが死の裁きを受けることになり、病に倒れて12日間の闘病の後、息を引き取った。彼の死後、ギルガメシュは、死について考えると同時に死の恐怖に怯え、永遠の命を求める旅に出たのであった。

『ギルガメシュ叙事詩』は、4600年前にメソポタミア南部で書かれた最古の叙事詩で、この叙事詩のメインテーマが、この森の神フンババを退治する物語である。すべてがこの物語から始まったといっても過言ではないだろう。ギルガメッシュの英雄伝なので、彼からの目線の物語になっていて、フンババも怪物のように書かれてはいるが、意外に人間臭い、弱さや脆さの描かれている物語のようである。

ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『幻獣辞典』では、「フンババの姿は、前足が獅子、角のような硬い鱗が全身を覆い、足には禿鷹の爪、頭には野牛の角を生やし、尾と男根の先は蛇の頭になっていた。」と紹介されていて、その姿が伝わっているが、本来は神々の森の番人であり、聖なる属性を持つ、自然の精霊、または森の王であったとされている。また、フンババの顔を彫った像は、魔除けとして使われていたようである。