奈良県天理市長滝町14−7

天理ダム

奈良県天理市の市内を貫くように流れる布留川、この上流にあるのが天理ダムである。日本書紀にも記述がある日本最古の神宮、石上神宮の脇を抜けるようにして布留川沿いの狭い旧道をさかのぼると、やがて天理ダムの巨大な堤が姿を現す。この天理ダムは古くから心霊スポットとして有名であり、自殺の名所だという噂や事故死したライダーの霊が夜な夜な出没するという噂が絶えなかった。名阪国道が通行止めの際は抜け道として交通量が増えるものの、普段は日中でも時折車が通る程度の人通りの少ないエリアであり、そうした噂が立つのも頷けるような寂しい場所である。

・天理ダムの歴史

とはいえ、天理ダムは建設当時からいわくつきのスポットだったわけではない。奈良県の重要水源である大和川の支流、布留川の治水のために天理ダムは建設された。だが、建設によって湖底に村が沈んだというエピソードがあるわけでもなく、工事中に大きな事故が起こったわけでもなかった。昭和43年から計画が進められたダム工事は、何の問題もなく終了し、昭和54年に天理ダムは無事完成したのである。

・なぜ心霊スポットと呼ばれるようになったか

このように建設の経緯について天理ダムは心霊現象とはまるで無縁の場所であった。ではなぜ天理ダムが心霊スポットと呼ばれるようになったのだろうか。

天理ダムを訪れたことがある方はおわかりいただけるかと思うが、天理ダムの周囲には各方面へと続く道路が走っている。ダムを形成している周囲の山の斜面や断崖に張り付くように道が走り、急カーブも非常に多い。この危険な難コースに目をつけたのが当時の走り屋グループである。暴走族やローリング族と呼ばれた若者たちが天理ダムの急カーブでバイクのスピードを競い、中には事故で大怪我を負ったり命を落とした者もいたのである。今でこそ撤去されたが、かつてはあちこちにローリング禁止の看板が立てられていた。中にはバイクにまたがったガイコツという不気味なデザインのものもあり、そこから天理ダムには死んだライダーの霊が出るとの噂が立ち始めたのである。

さらにダムの湖底から車が発見され、中から死体が見つかったことも噂を加速させることになった。この事件は自殺と断定され捜査が終了したが、このことから天理ダムは自殺の名所だという噂が流布されるようになったのである。

・天理トンネルについて

暴走族やローリング族の活動が下火になるにつれて、天理ダムに幽霊が出るという噂は次第に薄れていった。しかし、心霊現象の噂が完全に消えたというわけではない。現在この近辺の心霊現象の噂は天理市から天理ダムへと続く道にあるトンネルへと移っている。

実は布留川沿いの不便な旧道にかわって、新しいトンネルが掘られ国道25号線が天理ダムまで新設された。新道は片側1車線の広い道路で、天理ダム方面に向かう人は現在こちらの道をもっぱら利用している。この国道の途中にある天理トンネルには、今でもバイクに二人乗りをした幽霊が出るという噂が存在している。深夜にこのトンネルを走ると、ものすごいスピードの二人乗りのバイクが追い越していくというものである。

このトンネルでも以前に人が亡くなるという痛ましい事故があった。ただ、その事故はワゴン車の横転事故であり、バイクの事故ではなかった。もともと人通りのない寂しい場所にあるトンネルだけに、事故とかつての天理ダムの心霊現象の噂が合わさって、そのような新たな霊の噂が生まれたのかもしれない。ただ、このトンネルも天理ダムに劣らず不気味なスポットであることには変わりはない。深夜にわざわざ訪れるなどというようなことはしないほうが無難であろう。

ダム周辺は、ヘアピンコーナーがあることから走り屋の集まる場所であったが、ダムでの入水自殺もたびたび起きるらしく、事故死者や自殺者の霊が現れると言われており、バイクに乗った若い男性の霊が、この場所に訪れた人達を付け回し、ダムとトンネルの間で突然消えるという噂がある。