吸血鬼ドラキュラの哀しみ

「ノスフェラトゥ」は、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の吸血鬼映画です。ホラーではありますが、芸術・歴史映画ともいえそうな作品です。怪優クラウス・キンスキーがノスフェラトゥ(ドラキュラ伯爵)を演じています。ある若夫婦の夫が、東欧へ旅をして、そこでドラキュラ伯爵に出会います。ドラキュラ伯爵は吸血鬼で、長い時間を生きているのですが、そのことは分かりません。夫は船に乗り故郷に戻りますが、ドラキュラ伯爵が棺に隠れてその船に一緒に乗っています。そして船は吸血鬼に襲われてほとんど全滅してしまいます。ドラキュラを乗せた船はヨーロッパの街に戻ります。その街にはネズミの大群が走りまわり、黒死病が流行して、人々は死の舞踏を踊っていました。人のほとんどいない中世ヨーロッパの町並みが美しいです。ドラキュラ伯爵は、若夫婦の妻に恋慕の情をいだき、彼女の血を吸おうと思っています。黒死病と死の予感にとりつかれた街を、ドラキュラ伯爵がよろよろと歩いています。吸血鬼に襲われる人々と、黒死病で倒れていく街の人々・・・。死にとりつかれた中世の街の沈黙が、なんともいえず絶望感を感じさせ、しかも限りなく美しいのです。妻は自分を犠牲にしてドラキュラ伯爵をおびきよせ、朝の光に当てて、吸血鬼を滅ぼそうと考えます。美しい妻は、自らドラキュラ伯爵の犠牲になり、血を吸われますが、ようやく思いを遂げたドラキュラ伯爵は、思わず時間を忘れ、朝の光に当たって滅びていくのです。何とも言えない滅びの美を感じさせるラストでした。

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