賛否両論

賛否両論の真っ二つに分かれるタイプの映画のようだ。おそらくは、そもそもどういう風に映画というものを見ているかによって、この映画に対して抱く思いも大きく変わるのではないかと思う。るんるんは『ナインスゲート』を楽しめたタイプの人間なので、あくまで推測の域を出ないが、きっと消化不良に感じた人はエンディングのその先こそを期待して鑑賞していたのではないかと思う。一体『ナインスゲート』のその向こうには何が待っているのか、途轍もない何かが待ちうけているのではないか、と。確かにその視点に立つと、この映画ほど肩すかしを食わされる映画もあるまい。
反対にこの映画を楽しめた人は映画全体の持つムードや薫り、ひとシーンひとシーン深まる美しいミステリーの濃度、そういったものをゆっくりと味わった人ではないかと思う、自分がそうであったように。
ジョニーデップ演じる主人公の古書探偵コルソは、あくまで金銭のために古書を扱うプロであったが、古文書収集家バルカンに、彼の所有する悪魔の書の真贋の調査依頼を受け、スペインに、フランスに調査を進める。その調査が進むにつれて、コルソ自身が悪魔の書の謎めきに誘かれ、謎の解明に没入してしまうさまが描かれる。まさにコルソのごとく、見ている側もそのミステリアスな書に魅せられ、その謎解きに夢を見るがごとく見入ってしまう。この映画の魅力のひとつは「謎」というものに本来備わる幻術的な求心力に惹かれる人間を描いている点であるのだが、それだけではない。
この映画の真の魅力は、劇中に描かれる様々な五感の味わいにあると思う。まず音のゆたかさに驚かされる。古文書の革のカヴァーが素手の接触をその内に籠らせ、やわらかく響かせて、とっとっと鳴る音の心地よさ。古文書の厚手の紙をめくるときの秘密めいたささやきに似た音。木造の床をこつこつと優しく叩く靴の音。革がたわんでたてるぎゅうと絞られるような音。あらゆる音が魅惑的に静けさを際立てる。また、臭いや味や感触すらも感じさせるような映像の質感が素晴らしい。古書の表紙を撫ぜる手の感触、ページをめくる乾燥した紙の感触。そして、煙草と洋酒。これほどおいしそうに煙草の煙をふきだし、これほどおいしそうに洋酒をあおる映画が他にあるだろうか。そういったディテールが大変繊細に美しく描かれているところが実に味わい深い。
また『ナインスゲート』のジョニー・デップには出色のセクシーさがある。眼鏡をかけ白髪混じりの古書マニア、冷徹で計算高いが、どこかドジ臭く不器用な中年男。ジョニー・デップ出演映画も数々見てきたが、恐らくこの映画のジョニー・デップが最も色気があり、セクシーで、かつ可愛らしささえ漂わせ、非常に魅力的だ。レナ・オリンのいやらしさとエレガンスとヒステリーをむんむん放った存在感と、それとは対称的にクールで悪戯好きな魔女を演じるエマニュエル・セイナーの不思議な魅力も非常におもしろい。
特にセクシュアルなシーンが多いわけではないのに、全体的に官能的なムードが漂っているのも、どことなくコミカルな雰囲気も、車椅子の老女の殺害シーンやラストの炎に包まれるシーンなどのサディスティックな描写も、実にロマン・ポランスキーらしくて、にやりとさせられた。

不完全燃焼な気分が残りました

ジョニー・デップ主演のオカルト・ミステリー映画です。

この世に三冊しか存在しない「悪魔の本」の調査をジョニーが受けることから始まる物語ですが、全体的にホラーというよりはミステリ映画的な印象が強く、怖い映画ではありません。

派手さはありませんが、センスの良い美しい映像とユニークなジョニー演じる探偵(酒と煙草ばかりで超不健康)の魅力だけでまったく退屈しません。

「悪魔の本」の挿絵に隠された秘密も興味深かったです。

ミステリー映画には、なにより雰囲気が大切なんですが、これが非常に素晴らしくよく描かれています。

最後までとても面白いのですが、ラストはこういった映画にありがちな「で、どうなったの?」という感じのボンヤリとしたもので、仕方ないとは言え不完全燃焼な気分が残りました。

まあ、この辺で寸止めしておく方が最後まで雰囲気を壊さずに終われますから良かったのかもしれません。

オカルト的な側面だけでなく、ユーモアもあったり謎解きもあったりして、似た感じの映画「エンゼルハート」よりも万人向けかもしれません。

あちらの方が怖さでは圧倒的に上ですが。

ちなみに、この映画を観るキッカケになったのは、「ジョジョの奇妙な冒険」等で知られる漫画家、荒木飛呂彦の著書「奇妙なホラー映画論」を読んだからです。内容はホラー初心者の方に向けた案内書といった感じで、彼の非常に真面目な人柄が窺えます。

その中で、この「ナインスゲート」を「極上の作品」と褒め、主人公のキャラを漫画の参考にしたとまで書いていました。

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