役者陣の怪演が目を引く

軒並み評価が高いことや『レスラー』『レクイエム・フォー・ドリーム』のダーレン・アロノフスキー監督ということで嫌が応にも期待が募り、ハードルが高まる。そしてこの映画鑑賞後の充足感は計り知れないものだった。ハードルを軽く飛び越えたのだ。

自分はこの監督の作品は『レクイエム・フォー・ドリーム』しか見ていないので大それたことはいえないが、このレクイエム〜を見たときのえもいわれぬ不快な感触が今でも忘れられない。一番といってもいいほどにトラウマを抱えた作品だ。そして今回鑑賞したブラック・スワンもストーリーの違いもあり、トラウマを抱えるほどではないけれど、相変わらず見るものを不快にさせることに関しては天賦の才である。

不安な内情を晒すようにぐらついたカメラワークに始めのうちは、カメラ酔いしそうだな、と思っていたのだけれど、現実と虚構の狭間を行き来する展開にぐらついたカメラが気にならないほど世界観にのめり込んでいった。これには酔いもきれいさっぱり覚めてしまった。

そんな不穏な空気をさらに引き立たせるのが歪んだ協奏曲が奏でられる音楽。これには寒いことを言ってしまうけど戦慄が走る旋律に胸が掻き毟られる想い。

そういった演出の中で自分を見失っていくナタリー・ポートマン、娘を寵愛するバーバラ・ハーシーを代表するように役者陣の怪演が目を引く。

本編終了後、エンドロールで暫し茫然となってしまった。こんな映画は久方ぶり出会っていなかった。

爽快感はあまりないので、そう何度も見たくなる映画ではないけど、衝撃度は限りなく高い。

プリマドンナの妄想と現実

「白鳥の湖」の主役に選ばれたバレリーナの主人公。真面目な性格から、悪女である黒鳥の演技がうまくいきません。緊張と役を奪われる不安に苛まれる中、彼女の周りにおかしな事件が起こり始め……。

結構グロいので、血や痛いシーンが苦手な人は注意。はらわたや首チョンパなどはないのですが、ちょっとしたケガ(ささくれやかきむしり跡)が非常に痛そうに映像化されています。それがかなり怖いです。私は首がぶっとばされるよりこういう描写が苦手なので辛かったです。むしろこういう描写のほうが好き!という人は楽しいでしょうが。

作品中盤から妄想・幻覚と現実の区別がつかなくなってきます。映画はずっと主人公の視点で描かれるので、見ている側も妄想と現実の区別がつきません。いったい何が真実なのかわからないまま、公演の舞台まで辿り着きます。知らない車に乗せられているようでくらくらしました。

それからバレエのシーンが非常にかっこいいです。基本的に上半身しか映らないのですが、その分表情がよく見え、ぐるぐると回る視界で主人公と一緒に踊っているような気分になります。ただの舞台装置として使うのではなく、しっかりバレエという芸術を噛み砕いた映画だと思いました。鬼気迫る、とはこういうことなのでしょう。

バレエのことをよく知らない人も楽しめる映画だと思います。ホラーというくくりにするのがもったいないくらいですが、やはりホラーが好きな人にも見てほしい。そんな映画でした。

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