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豆狸(まめだぬき)とは、西日本に伝承されている、タヌキの妖怪である。
江戸時代の奇談集『絵本百物語』にも記述があるようだ。
『日本各地に伝わる豆狸の伝承』
・徳島県に伝わる豆狸は、夜になると、山の頂上で火を灯すという。それがあると、次の日には必ず雨が降るという知らせなのだそうだ。
・高知県に伝わる豆狸は、妖怪絵巻『土佐化物絵本』によると、土佐国の須江村のとある家で、女性が厠へと入ったのだが、そこには4.5尺ほどの坊主のような者が、女の尻に悪戯をしたという。この坊主の正体が、豆狸だったのだそうだ。
・兵庫に伝わる豆狸は、酒造が盛んな兵庫県灘地方で、酒蔵が建ち始めた頃に豆狸も住み慣れてきており、酒造りの途中の蒸し米を拾いにきたり、真夜中に大きなタライのようなものを転がすような音を出したりと、いろいろやっていたようだ。
しかし、こんな悪戯するたぬきだったが、酒造の業者達には崇められていたそうだ。
蔵に豆狸が1~2匹はいないと良い酒ができないとまで言われていたという。
信楽焼のタヌキの置物の定番の小道具である徳利と帳面は、ここからきたのだと考えられている。
山陽地方の豆狸は、「マメダ」とよばれ、3~4歳くらいの子供程度の大きさで、見た目は老婆の姿に化けて、納戸などに無言で座っていることがあるという。
『人に憑くとされる豆狸』
豆狸は、人に憑くという説があるのだが、しかし、憑くのは豆狸に悪さをした場合のみなのだそうだ。
あるとき、酒造で働いていた者が、唾を豆狸に吐きかけ、それのせいで豆狸に憑かれ、そのまま行方不明になったという。
そして、四日後に、その男は、蔵の奥で呆然とした状態で発見されたという。
その男の皮膚の下をコブのようなものが走り回っていたそうだ。
豆狸はなかなか抜けていかなかったが、豆狸を祀る事を約束し、やっと抜けてくれたのだという。
そして、森助大明神という祠を建て、人々に崇められたのだという。
大阪地方では、人に憑いたという話は多く、著書『動物界霊異誌』でも豆狸の起こした事例を述べている。
大阪の東区(現・中央区)谷町で、豆狸に憑かれた者がいた。
そこで、とある霊能力者が依頼を受け、豆狸を払うためにその者の家に出向いたところ、その者の背中には、豆狸が2~3匹見えたが、霊能者以外には見えていなかったという。
霊能者が術をかけたところ、その者の左腕にコブができ、それが腕伝いに指先へ移動し、灰色の水あめ状の物が指から落ちたという。
その物体は、小さな饅頭ほどの大きさで、高速で回っていたが、やがて動きがとまり、その後、家の巡回中だった巡査に素早く取り憑いた。すると、巡査は急に狂乱状態に陥り、サーベルを振り回しながら去っていったという。先に憑かれていた者は全快したのだが、後から憑かれた巡査はその後どうなったかは定かではないという。
『絵本百物語』
絵本百物語での豆狸は、八畳もある玉袋を持ち、、関西以西に多く棲んでいたのだそうだ。大きさは犬くらいで、ほかのタヌキより頭がよく、玉袋に息を吹きかけ、大きく広げ、部屋などの幻を人に見せたり、自ら玉袋をかぶり、別のものに化けたりしたという。
宮崎県で、魯山という俳諧師が、趣味仲間の家に泊めてもらったのだそうだ。
その夜、八畳の間で、俳句を作っていた魯山は、煙草の吸殻をうっかり畳に落としてしまったのだそうだ。その時、急に畳が動き出し、八畳間が、跡形も無くきえてしまったのだそうだ。
その畳は、豆狸の玉袋でできていたようだ。
この玉袋を使って化かす狸は、ジブリ作品の「平成狸合戦ぽんぽこ」でも登場している。