土転び、槌転

土転(つちころ)びは、槌転、槌転びとも表記される、山の妖怪。水木しげるのイラストでは、毛むくじゃらの塊が足元にまとい付き、歩行をを危うくする妖怪。一説に、毛の生えたヘビとも説明している。
フォルムとしては、名前の由来の一つ、ワラを打つ農具である槌のような形態と、ヘビを思わせる形態に別れている。
「北国奇談巡杖記」によると、槌子坂では小雨の降る夜、真黒な搗きウスのように巨大な槌の形の妖怪が出現した。転がり回った挙句に、2声ほど笑って、雷のような音と光りを発して消えた。これを見た者は2・3日後に、病気を患ったという。
このタイプの土転び・槌転には、立繰返(タテクリカエシ)、テンコロバシの異名もあった。
高知や宮崎では、タテクリカエシと呼ばれる妖怪がいた。高知では、餅を搗くキネのような形をしており、向うからスットンスットンと、音を立てて出現する。勢いよく突進して来るので、出会い頭に人間はひっくり返ってしまう。この妖怪は猪同様に、すぐに進行方向を変えられないので、ぶつかる寸前に身をかわせば大丈夫だという。
宮崎では雪の時期、道に手杵の形の足跡が続いていることがある。タテクリカエシの足跡だといわれているが、何者かわからない。
同じような妖怪が、岡山では、テンコロコロバシと呼ばれた。宮城では夜に、衣打ちの砧または槌であるテンコロが、坂を転がって来るという。これは、茶碗ころばしとも呼ばれた。
ヘビのフォルムの土転び・槌転も、転がって来るのは一緒だった。宮城には、槌の形、またはワラ苞の形をした猛毒の蛇がいたという。この槌転に咬まれると、死ぬと恐れられていた。
各地で、呼び名は異なる。宮城では、普通の蛇が鎌首をもたげてきたところを刃物で打つと、首だけが飛んでいくことがあった。頭部に止めを刺しておかないと、後でツトッコになって仇をするという伝承がある。ツトッコは槌の子だろう。鳥取では、槌の子が槌転びと呼ばれることもある。
岐阜の飛騨川の杉林で、槌蛇が山の上から転がり落ちるのを見た人がいる。槌蛇は、普通の蛇が絡み合ったものだともいう。高い所から丸くなって転げ落ち、大きさも木槌ほどだった。
奥美濃の人によると、横槌の名で、槌の子蛇が深山に棲むという。また、ツチとも呼んで、槌のような蛇だったという。
新潟には橫槌蛇がいた。頭も尾も同じ太さで、ぴょんぴょんと飛び跳ねて動くという。
愛知には、東門谷へ行く道で、ワラを打つ槌ぐらいの大きさの、ツト蛇という怪生物を見たという話がある。
「和漢三才図会」には、野槌蛇の記載があった。大きなものは差渡し5寸にも及び、長さ3尺ばかりで、頭と尾が等しい太さ、尾は尖らず、槌の柄の無いものに似ている。吉野郡の山中菜摘川清明が滝の辺りで、時どき目撃される。口が大きく、人の足を噛む。坂道を降りるのは早いが、登るのは遅いので、出会ったら高い所に逃げればよい。
更には、こんな話もあった。岐阜の横槌藪を通ると、狸が横槌に化けてゴロゴロ転がって来たという。
和歌山の日高には、野槌大明神の碑が立てられていた。ノヅチ、またはノーヅチは、手杵(てぎね)とも言われている。縦に体を返して進み、人に飛びかかって来る。大きくなると、兎さえ一口に呑むという。
「嘉良喜随筆」にある春日山に、妖怪がいた。この変化の者は、この山に長年住み、墓を暴いて死体を食べる。その者が掘り出したものは、臭気がすごく、マリほどの大きさで、貨幣のように小さく平たいものだった。これは、野槌というものではないかと言う人もいた。

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