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上半身が人の姿で、下半身は魚という伝説上の生き物・人魚。
海岸や海の沖合、海中で見られる生き物で、おとぎ話の人魚姫で広く知れ渡った。
何もしなければ人に危害を加えるものではないが、人魚自体が不吉なものの象徴とされ、幸せに終わる物語はまれである。
主にヨーロッパで広まった生き物であるが、日本では619年に人魚が現れたという記録がある。

江戸時代、現在の富山県に現れたとされる人魚は、角が生えた11メートルの化け物であった。
村の人々が400丁あまりの銃で撃って撃退したという。
また、福井県では海辺の岩の上に人魚が寝ていたため、漁師がこれを殺したという。
すると村には海から轟音が響いたり地震が頻発したりと災厄に見舞われたという。
人が一方的に手を出したことで、人魚の怒りに触れたと考えられる。
逆に、不老長寿を授ける物としても知られている。
八百比丘尼(やおびくに)の伝承によると、ある男の娘が不老不死を授かった話がある。

神仏を祀って徹夜をする庚申講(こうしんこう)の日に、ある男が見知らぬ土地に足を踏み入れてしまった。
この世とは思えない場所で、男はたいそうもてなされ、豪華な料理をふるまわれた。
しかし、出された料理の中に人魚の肉が入っていることを知り、気味が悪くなって喰わずに持ち帰った。
男の妻と娘は事情を知らず、土産と思って人魚の肉を食べてしまった。
すると娘は老いることがなくなり、いつまでたっても若く美しいままだったという。
自分の周りでは皆年を取るため、夫は先立ち、何人の夫を先に亡くしたかわからないほどだった。
やがて娘は村を出て出家し、若狭に入定したが、当時の年齢が800歳だったという。

この人魚の不老不死伝説は、隣の韓国でも伝わっている。
ある漁夫が海で美女に出会い、竜宮城へ招かれた。
すっかり居心地の良くなった漁夫だが、1日いっぱい遊んだ後に帰ろうとすると、美女から高齢人参に似た土産をもらう。
しばらく放っておいたが彼の娘がこれを食べ、それっきり年をとらずに300歳近くも生きたというのだ。
長寿にまつわる話が多いのは、日本に限ったことではないのである。

西洋に伝わっている人魚には呼び名が沢山ある。
例えば「セイレーン」は、ギリシャ神話に登場する伝説の生き物の名前だ。
美しい歌声で船に乗る人々を魅了するが、聞き惚れているうちに船が難破するという恐ろしい生き物である。
「ローレライ」もまた同じく、船で航行中の人々を美しい声でとりこにし、聞き惚れて舵をとりそこねた船は川底に沈むというものだ。
そのほかにも「ハルフゥ」「メロウ」という呼び名があるが、いずれも災厄の結末になるため縁起の悪いものとして扱われている。

一説によると、人魚はジュゴンを見間違えたものではないかと言われている。
しかし、ジュゴンは体長3メートルだが、富山で村人たちが退治した人魚は11メートルだ。
体長に7メートルもの開きがあるので同じであるとは言い難い。
頭に角があったという点でもジュゴンとは大きく異なっている。
人魚を見た者の話しと照らし合わせると、上半身が人であったという証言があるため、やはりジュゴンと見間違うというのは考えにくい。
日本には人魚のミイラが存在するが、科学的に検証した結果、猿と魚の死体を組み合わせて作った偽物であるとわかった。
決定的な遺物のない人魚だが、はたして本物は存在するのだろうか。
イスラエルでは目撃例が世界で最も多いとされており、ここならいつか人魚に出会えるのかもしれない。