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般若とは女性の怨霊を表現する面の意味が最も強く、恨みの表情を表したものである。
般若は、女性の嫉妬や怨念に悲しみと嘆きなどを一つの面の中に全て融合した芸術性の高いもので、鋭い牙と2本の角を持ち、眉間をしかめ顔を硬直した鬼女を表現している。

般若はもともと、室町時代に奈良に住む僧侶般若坊が、芸術性を盛り盛り込んで創作した鬼女面というものであり、その名前の由来は面打ち氏の般若坊の創作から
とった名とされ、般若心経で心機一転する怨霊として有名な鬼女である。

また般若は嫉妬のあまり蛇と化す前の表情を表しているとされ、さらに嫉妬に狂って蛇の化身になってしまった「真蛇」と呼ばれる能面も存在する。

般若の面と言うのは能の舞で用いられる能面であり、頭には長い2本の角と鋭利な牙が上下に生えており、嫉妬や恨み、悲しみなどの
感情が込められた女性が鬼のような表情になったとされている。

また日本人の好む能の世界では、般若は最も良く使用されており、また能面の創作当時、般若のみ女性の身分によって使いわけるようになったのだが
白般若は「葵上」、赤般若は「道成寺」と舞台によって使い分けられるようになり、鬼女の意味で使われるようになったのは、石燕の描いている
能の葵上の影響が最も強いと言われている。

般若には3種類あり、白が上品で控えめに表現され葵上など高貴な女の嫉妬、赤が中品で道成寺、黒は下品で完全な鬼に近い安達原とされ
その表情はいずれも耳まで裂けた口で、泣いて怒っているような恐ろしい女性の表情である。

この話は源氏物語の逸話とされ、葵の上という名の源氏の妻を、源氏の愛人である六条御息所が、嫉妬から生霊になって邪魔をしようとするが
僧侶の経文によって撃退されるというストーリーである。 

般若はその表情から怨霊面と呼ばれ、恨みをもって、生きている者に災いを与える死霊であり、または生霊とも言われている。
また嫉妬に狂った女の表情を表したものがあり、能ではその恨みをいくつもの段階に分けて着け分けられている。

現在は御霊信仰により神の霊として崇められ、現在はその怨霊を祓う魔除けとしての意味も強いとも言われている。

もともと般若は般若心経で知られるとおり、般若は智慧と訳すもので、ありとあらゆる物事の本来のあり方を理解し、仏法の真実の姿をつかむ知性と
最高の真理を認識する知恵でもある。

そして般若は現在でも鬼女として扱われているのだが、元はサンスクリット語であり、悟りを開き、真理を認識する最高の智慧という崇高な意味であった。

また僧侶は酒を飲む事が禁じられているために、僧侶が禁じられた酒をこっそりと飲む時に使った隠語が般若湯というのは有名であるが
しかし少量のお酒は頭の回転も速くなり、知恵も働く様になると言う事を理由に、般若の智慧を得られるとして般若湯は好まれていたようである。

後ろ弁天前般若という言葉もあり、弁天様は美人とされ、その一方で般若は憤怒の表情で二つを相反するものと組み合わせ、後姿は綺麗だけれど
その反面で前から姿を見てみると不細工と言う意味と、裏表のある性格であると言う内面を指して言う場合がある。

また葛飾北斎の『百物語』には、笑い般若が描かれているが、通常の怒りの表情に比べてこちらは不気味な笑顔が描かれていて、非常にインパクトのある作品だ。
それは北斎が描いた般若は不気味な嗤う般若であるので、笑顔の般若が非常に不気味であるのでご覧になられるといいだろう。