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落雷と共に現れると言われる妖怪、それが雷獣(らいじゅう)である。
おもに、東日本を中心として、各地でさまざまな伝説が残されている。江戸時代の随筆や近代での民俗資料などにも多く見ることができる。
一説によると、『平家物語』において、源頼政に退治されたとされる「鵺」(ぬえ)は、この雷獣だったのではないかともいわれている。
明治時代になると、河童や人魚などの妖怪に比べ、知名度が下がっていったが、江戸時代では、雷獣の知名度は高かったという。
空を飛ぶ技術のなかった江戸時代では、空とはまったくの未知なる世界であったため、空の上がどんなかをあれこれ想像を巡らせるだけで、確かめようがなかったためか、そのうち、空の上に生物が住んでいるという妄想が生まれ、その生物が、落雷と共に地上に落下してきたものという考えになり、ここで雷獣の伝承が生まれたのではないかと言われている。
『雷獣の姿とは』
体長2尺前後(約60センチメートル)の仔犬、またはタヌキに似ている。尻尾が7.8寸(約21~24センチメートル)で、鋭い爪をもっている動物とされているが、文献や伝承によって様々に語られているようだ。
江戸時代の辞書『和訓栞』に記述のある信州では、灰色の仔犬のような獣で、頭が長く、キツネより太い尻尾を持ち、ワシのような鋭い爪を持っているのだそうだ。
江戸時代の随筆『北?瑣談』で下野国烏山(現・栃木県那須烏山市)の雷獣は、ネズミのような姿だという。
4本の脚の爪はやはり鋭いようだ。
その他、多数の雷獣と思われるものがあるが、大体は哺乳類系の、タヌキやイタチ、ネズミや犬の容姿で通っている。
しかし、これは東日本で良く見られる雷獣であり、西日本では、まったく違うタイプの雷獣が伝わっているようである。
特に芸州(現・広島県西部)では、非常に奇妙な姿をした雷獣とおぼしき獣が伝えられている。
それは、享和元年(1801年)に芸州五日市村(現・広島県佐伯区)に落ちてきたとされている雷獣で、その姿は、カニ・・または蜘蛛のような姿をし、脚の表面は、鱗のようなもので覆われており、前足には大きなハサミのようなものが付いている。
体長は3尺7寸5分(約95センチメートル)、体重は7貫900目(約30キログラム)ほどだったという。
弘化時代の『奇怪集』にも、享和元年5月10日に芸州九日市里塩竈へ落下したとされる雷獣の死体が記載されており、同一の情報とみなされているようだ。
そしてさらに、享和元年5月13日と記された雷獣もやはり鱗で覆われた四肢の先端にハサミを持つもので、特徴として「面如蟹額有旋毛有四足如鳥翼鱗生有釣爪如鉄」と解説文が添えられている。
『雷獣の正体』
各古典などで記録されている雷獣の大きさ、外見や鋭い爪、木に登り、木をひっかくなどの特徴として、実在する動物の中で、ハクビシンが一番近い。
江戸で見世物とされていた雷獣の説明もハクビシンに合い、江戸時代当時には、ハクビシンの固体が少なく、名前がまだ与えられていなかった可能性があるため、ハクビシンが雷獣とみなされている説があるようだ。
『現代に残る雷獣の遺物』
新潟にある西生寺の宝物館には、雷獣のミイラがあり、一般公開もされている。その由来や伝承は不明であるが、体長35センチほどの猫のような姿であり、大きく牙をむき出しにして威嚇をしているかのような姿勢でミイラ化している。妖怪研究家がこれを見て、「ネコそのものだった」と語っている・・
同様に、静岡県にも旧家の蔵から、「雷獣」と書かれた和紙に包まれたミイラが発見されており、それもやはり由来などは判明していないという。
岩手県花巻市の雄山寺にも、「雷神」と書かれてある札のはられたミイラがあり、雷獣とみなされているようだ。