清姫

清姫とは『安珍と清姫』として人口に膾炙した物語のヒロインにして、蛇となって愛しい人を焼き殺した女性の名前。

昔、奥州白河(福島県南東部)に安珍という修行僧がいた。彼は毎年、紀州(和歌山県)熊野権現へ参詣していたのだが、そのための宿を真砂の庄司清次の家に定めていた。
この家に清姫という名の娘がいて、幼いながらたいそう器量のいい娘であった。
ある時、安珍が冗談のつもりで「嫁にしてやろう」と言うと、それを真に受けた清姫は「いつ嫁にしてくれるのかと」迫るようになった。
清姫が十三歳の年のことである。
いつものように真砂庄司宅に投宿した安珍の元へ、夜半を過ぎた頃、清姫がやってきた。
修行者である安珍は妻を娶る事はできない。
じっと居座る清姫をなだめる為に安珍は「熊野権現への参詣を済ませたら、きっと真砂へ戻ってきます」と言葉を掛けてその場を収めた。
さて、安珍が真砂を発ってしばらくの時間が流れた。
清姫は約束の言葉を胸に安珍の帰りを待っていたが、いつまで待っても一向に安珍は姿を現さない。
実はこの時、熊野権現参拝を終えた安珍は清姫の待つ真砂を迂回して、塩見峠から田辺へ抜ける道を辿って奥州への帰途についていた。自分の口から出た事とは言え、戯れを真に受けられた安珍は清姫への対処に困り果てていたのだ。
やがて清姫は、街道を行く旅人の話の断片から安珍の裏切りを知る事となる。
思いを捨てきれない清姫は真砂を飛び出し、愛しい人を追って田辺へと走った。
やがて清姫は上野の里(現田辺市上野)でついに安珍に追い付く。
物語中の地名を和歌山県田辺市中辺路町真砂と和歌山県田辺市上野の二箇所と仮定した場合、現在国道218号線によって繋がれた二点間の距離は直線距離で2.5キロほど。少女の足で曲がりくねった峠道を駆けるのは相当に辛かったはずである。
ところが、こうして追い掛けて来た清姫の姿に恐れをなした安珍は人違いだと言って取り合わず、さらに呪法を用いて清姫が簡単には動けないように封じて逃げ出してしまう。
しかしそれでも諦めきれない清姫はさらに逃げた安珍を追い掛け、日高川で再び安珍に追い付く。上野の里から直線距離にしておよそ30キロほどの場所である。この頃には愛らしかった清姫の姿はまるで鬼女の如くに変わり果てていた。愛しい人を追いかけた末の姿だった。
安珍は渡し守に船を出させて僅かに早く日高川を越えた。
清姫は日高川の流れに阻まれて、あと一歩安珍に手が届かない。
「おのれ……安珍……!」
ところがその時、清姫の身体に異変が起こった。
少女の身体はいつしか大きな蛇へと変わっていた。蛇体となった清姫はその身に火を纏って日高川に身を躍らせると、泳いで対岸へと向かい始めた。
蛇となって追い縋る清姫の姿に驚いた安珍は、日高川からすぐ目と鼻の先にある道成寺へと逃げ込んだ。追い詰められた安珍は寺の梵鐘を降ろしてもらい、その中に身を隠して清姫をやり過ごそうとしたが、蛇体となった清姫は安珍の隠れている鐘を見破るとそこへ
自分の身体を七重に巻き付けて火を吐き、ついには鐘もろとも安珍を焼き殺してしまうのである。こうして安珍の裏切りに対して復讐を果たした清姫の心がどこにあったのか知れないが、彼女は元の姿に戻る事もなく蛇の姿のまま入水して自らもその命を絶った。
その後二人は道成寺の住職の夢枕に現れて供養を頼む。
住職が二人のために法華経を唱えるとその功徳によって二人は成仏する事となる。
以上が一般的に語られている「安珍・清姫伝説」の概要である。

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