ケンムン、ケンモン

ケンムン、ケンモン

 「ケンムン」あるいは「ケンモン」とは、奄美諸島に伝わる妖怪である。ケンムンは河童の習性に近いとも言われるが、陸上に生息する妖怪で、ガジュマルやアコウの老木等をその住処として好むと言われている。
 奄美市立奄美博物館所蔵のケンムンの図によると、ケンムンの体は子児とほぼ同じ大きさで、全身は毛で覆われ、頭には皿のようなものをのせている。この図には人間と仲良く手を繋いでいる様子が挿入されているが、どの程度ケンムンが人間社会に関わっていたかは定かではない。なお、ケンムンの体毛は赤く、よだれは青く光ると言われている。通常の姿は見えないが、このよだれから発せられる青い光がケンムンの目印になっているようである。
 さてこのケンムンだが、いたずら好きな話が多く伝わっている。まず夜にガジュマルの木の下を通ると、通行人の目を刺すといったいたずらをすると言われている。住んでいる木が切られてしまった場合は、その人の片目を抜くとも言われている。またケンムンと旧暦の11月、12月に漁に出かけると、大漁になると言われるが、とれた魚の目はすべて片目が抜き取られているという。漁に出かける際は、タコがいないかどうかも重要らしい。ケンムンはタコが苦手なようである。
 名越左源太による『南島雑話』によれば、ケンムンは人と会うと相撲を挑んでくるらしい。なんともユニークな話だが、頭の皿を割ると簡単に勝てると言われている。ただしケンムンは、相撲に負けるとたくさんのケンムン仲間を呼ぶらしい。その後は、永遠に相撲し続けなければならない。そのため手加減をして負けることが良いとされる。
 大島郡笠利村に伝わる話では、浜辺で相撲を挑まれたものが、ケンムンに勝ち続けた。しかし次々と現れるケンムンに煩わしくなり、そのうちの一匹を捕まえて家に連れ帰り、柱に繋いでおいたらしい。しかし気味が悪くなり、熱湯をかけると消えてしまったという。その家では以降、体の不自由な子が産まれたと伝わっている。
 『南島雑話』にはまた、薪を背負って山を下りる村人を助けようと、自らも薪を背負って村人のお手伝いをするケンムンが登場する。このケンムンは人里近くで人の姿を見るとすぐ逃げ去ってしまうと言われている。
 以上の話を総じて考えれば、ケンムンは何もしなければ穏やかでおとなしい性格と言えるかもしれないが、ケンムンを怒らせたりした場合は良くないことが起こり得るもの、と言えそうである。
 そんなケンムンだが、実は昔は人間であったとする説がある。季刊誌『民話』(八巻)に所収の恵原義盛による「奄美物語」によれば、ケンムンは昔、ネブザワという人間であった。このネブザワ、漁師であったがその仲間を殺して、彼の妻を寝取ろうとしたらしい。それが祟り、半分ケダモノ、半分人間の体にされてしまったという。そのため人目のつかないよう、暗い木の中に住んだと言われている。ケンムンは自分を「ネブザワ」と呼ばれることを嫌って、これを口にしたものを祟るらしい。
 同じような話は、山下欣一による『徳之島民俗誌』にも登場する。ケンモンは昔、兄弟で兄が漁師で弟が山仕事をしていたと言われる。その兄が包丁をわざと海に落とし、取りに行かせた弟を殺したと言われる。この兄が弟の嫁に手を出そうとして祟られ、ケンムンとなった。
 大島郡瀬戸内町に伝わる話では、ケンモンはジャワ島から来たと言われている。初めは海の瀬に住ませていたが、タコに巻きつかれるのが嫌で、ガジュマルの木に住ませるようになったと記録されている。

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