僕が高校3年生の時の話です。高3の夏は大学受験に向けてみんな予備校や塾の夏期講習で勉強三昧の日々。僕も例外ではなくほぼ毎日、予備校にいき勉強していました。そんな忙しいある日、予備校仲間である友人のAが講習終わりの帰り道こんなことを言い出しました。
「なぁなぁ、実はこの近くに心霊スポットてのがあるんだけどよ、ちょっと行ってみね?」
Aは結構なホラー好きでその手の話や映画が大好きといったやつでした。しかし心霊スポットなどにはまだ行ったことがなく興味があったそうです。最初、僕は断りましたがAの強い説得に負け明日の昼食を奢るという条件で手を打ちました。
「ったく、1人で行けばいーのによー。」
「いや、それは怖いじゃん。」
このヘタレめ!心の中でそんな悪態をついているとAのいう心霊スポットに到着しました。いまは使われていないボロアパートのようです。
Aの話によると昔このアパートに父、母、小さい娘の仲のいい家族が暮らしていたそうです。しかしリストラにあった父親が無理心中を計ろうとしたが、妻と娘を殺したあと怖くなって逃げ出してしまった。それ以来アパートには母と娘を目撃する人が後を絶たなかったそうです。
「酷い話だな。それで逃げた父親はどうなったんだよ?」
「さぁ?変死体で見つかったとか、獄中で自殺したとか色んな話があるけど。」
「ふーん。んじゃさっさと入って帰ろうぜ。」
僕たち二人はその事件があったといわれる部屋に足を踏み入れました。
「うーん。血痕とか残ってると思ったんだけど、ゴミとか落書きだらけだ。」
「何を期待してんだよお前は。本当に出たら置いてくからな。」
それから数分、中をうろうろしましたが結局何も起こらず僕たちは帰宅することにしました。
その日の夜遅くです。
(あぁー、Aのせいで余計疲れた。さっさと寝るか。)
僕がベットに入り眠りにつこうとした時、携帯が鳴り響きました。(ん?非通知…。誰だ?)
「もしもし?」
「…ブツブツ……」
「え!?」
「…返して……。」
低く、とても重たい女の人の声でした。
「…返して……返して……返」
「うわっ!」
僕は通話を切り電源も切って携帯を遠くのほうに投げつけました。
(イタズラ…?でも…)
僕は心霊体験などしたことはありませんが直感的に霊的なものを感じ、その日は怯えるように眠りにつきました。
次の日、午前中から講習がありましたが昨日の電話が気になって全然集中出来ませんでした。そして昼休み、
「A!約束どおり飯奢れよな。それと少し話したいこともあるんだけど…。」
「話したいこと?」
「とりあえず行こうぜ。」
僕たちは近くのマックに入りました。(奢るってマックかよ、この野郎…)僕がそんなことを思ってるのも露知らずAはポテトをほうばっています。
互いに食べ終わった後、僕はAに昨日あった電話のことを話しました。
「どう思う?僕はあのアパートが関係してる気がすんだけど…。にしても返してって何なんだよな~。やっぱただのイタズラかな?」
Aは黙りこくり何も喋りません。
「ん?おい聞いてんのかよ。」
Aの顔を覗き込むと真っ青になって冷や汗を流してました。
「お前、まさか…」
「ご、ごめん…あの部屋に置いてあった手鏡、記念にと思って…持って帰っちゃった……。えへ♪」
「えへじゃねーよ!!!」
その後Aをこっぴどく叱り、さらにもう二日昼飯を奢る約束をさせ僕たちは手鏡を返しにいくことにしました。
講習が10時に終わったので僕たちがボロアパートに着いたのは10時半ごろだったと思います。
「A、手鏡はあるな?」
「はい!これです!」
それは作りこそ古そうですがごくごく普通の手鏡でした。
「よし。これを元にあった場所に戻して謝ったあとにすぐ帰る。分かったな?」
「了解です!隊長!!」
(なんだこいつ…)
ふざけてるAを軽くどついたあと僕たちは再びあの部屋に足を踏み入れました。手鏡を元あった場所に戻して部屋の中央に行き一礼をして謝りました。
「「勝手に部屋のものを持っていってすいませんでした。もうしないので許してください。」」
「これで平気だよな…?」
「うん、もう大丈夫でしょ。…多分。」
「んじゃもう出ようぜ。」
僕たちが部屋を出ようとした時、不意に後ろから視線を感じました。僕たちが恐る恐る振り返ると……そこには血だらけの女性が立っています。
「あ、あわわわ…」
ドザッ
Aは恐怖からか泡吹いてさっさと気絶してしまいました。ホントこいつは糞の役にも立ちません。僕がジッと女性を見据えると、女性が手鏡のほうを指さして言いました。
「…それじゃない……。」
そして次に僕に手招きをして言いました。
「…おいで……。」
続きです。
すると俺の肩から女の子がヒョコッと顔を覗かせました。
「うわああああ!!」
多分、この時が今まで生きてきた中で一番ビックリした瞬間だったんじゃないでしょうか。
女の子は俺の体から飛び降りると女性の元へ走っていきました。
「…………。」
ただただビックリして声すら出ません。女性と、その足にしがみついている女の子はすぅーと消えていきました。
(返してって、手鏡じゃなくて女の子のことだったのか…。んじゃAのせいじゃなかったんだな。にしてもあの子はいつの間に憑いてきたんだか…。)
僕は気絶しているAを起こし部屋を後にしました。起きた後のAはしきりにどうなったのかを聞いてきましたが、「女性は何とか許してくれて消えていった」と説明し後日、ちゃんと昼飯を奢らせたのは言うまでもありません。
あれから、どうやら僕は子供に憑かれやすい体質になってしまったようです。今でもたまにどっかから連れてきてしまうことがあったり。
Aは相変わらずホラー好きのくせにヘタレでビビりですけどね(笑)
終わり
怖い話投稿:ホラーテラー Kyoさん
作者怖話