中編3
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死してなお 2

続きです。

A子とB君は行方不明になりました。周りは二人は駆け落ちしたんだと囁いていましたが、私はそれとは別の、とても嫌な予感がしていました…。

三日後、A子とB君は近くの湖のほとりで見つかりました。水死体となって…。二人の死体は互いに手を握り合っておりなかなか離すことができなかったそうです。ふたりは生きることに悲観して、けれど出会えたことには感謝して、あの世で誰にも邪魔をされずに二人で一緒に過ごせるように、湖で手を握り合って心中したのでした…。

二人が死んでから湖には幽霊がでると噂されるようになりました。「二人の男女が湖の上で楽しそうに踊っていた」「湖のほとりにカップルがいると思ったら次の瞬間、消えていた。」などなど…。あの二人はまだこっちにいて仲良くやってるようでした。

しかし、この噂がまたもや歯車を狂わせていくことになったのです…。

A子を溺愛していた父親はとても悲しみ、怒り、…狂ってしまいました。湖の幽霊の噂を聞いた父親は高い金を払い有名といわれる霊能力者を呼びました。人づてにそれを聞いた私は真夜中に湖へと向かう霊能力者と父親にこっそりついていき、着いた後は茂みに隠れ様子をうかがいました。霊能力者は湖を見ると言いました。

「とても仲のよさそうな男女の霊が湖に漂っておられる。しかし害意や悪意は感じられぬし、いまは地縛霊となっているがじきに成仏するでしょう。供養塔たててあげればすぐに逝かれると思いますが、どうしますか?」

「そんなことはいい。それより男の方の霊…、そいつを地獄に落とせ。」

「…は?」

「地獄に落とせと言ってるんだ!」

「い、いや、しかし、それは…」

「お前には高い金はらってるんだぞ?それとも何か?お前が今すぐ地獄に落とされたいのか?」

父親は胸から出したナイフをぎらつかせ言いました。

「は、はい!いますぐやります!」

霊能力者はお経のようなものを唱え始めました。何やらひどい不協和音のようなお経。そもそも人が人を地獄に落とすなんて、そんなことができるのでしょうか。それはおそらく無理です。それこそまさに神の御技、少なくともあんな霊能力者にはとうてい出来そうには見えませんでした。唱え終わると霊能力者は言いました。

「男の霊は地獄に落とされました。永遠の苦痛を強いられるでしょう。」

それを聞いて父親は満足そうな笑みを浮かべました。その刹那。

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

湖全体に女、A子の叫び声が響き渡りました。この世のすべての悲しみがつまっている…そんな声でした。霊能力者と父親が避難しはじめたので私もすく様、その場を離れ全力で走り家に帰りました。そしてその日から湖の幽霊の噂が変わり始めたのです。「湖に恐ろしい形相の女がたたずんでいた」「シクシクと女の泣く声が聞こえた」そして男の幽霊を目撃する人は誰一人としていませんでした。

あの霊能力者は本当にB君を地獄に落としたのか、それともただ供養したのか…。いったい何をしたのかは分かりませんがハッキリしているのはB君がいなくなり、そしてA子だけが取り残された…ということだけでした。死してなお二人はあの男によって引き裂かれたのです。

続きます。

怖い話投稿:ホラーテラー @さん  

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