中編3
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線路沿いの用水路

一本の電話がはいった

父からだった

親戚が亡くなったそうで実家に帰って来いという内容だった

久しぶりの地元

葬儀は終わったが連休をとっていたのでしばらく地元に泊まる事にした

散歩をする

変わらない地元

畑や田んぼが多く小学生の時毎日皆で遊びまわっていた

昔を思い出しながら歩を進める

見覚えのある場所

線路沿いの用水路

心が苦しくなる

初恋をし

恋が終わった場所

昔の記憶が鮮明に蘇る

学校から帰ると決まって用水路でおたまじゃくしやザリガニを捕まえて遊んでいた

線路沿いの用水路

そうここが一番の穴場

田んぼで捕れないような大きなザリガニやフナ、たまにはドジョウが捕れたりする

いつも通り友達と集まり獲物を探す

男ばかりの中に一人だけ女の子がいた

甘い香りの笑顔が可愛いい女の子

その子は僕らとは違う小学校に通っていたがいつ頃からか一緒に遊ぶようになっていた

皆夢中になって獲物を探す

用水路を行ったり来たり

「おーい」

友達の一人が叫び皆が集まる

友達が線路を指差す

いくつかの花束が置いてあった

僕らは幼いながらにその意味を理解していた

「気持ちわりー」

別の友達がケラケラ笑いながら呟く

小学生とは無邪気であり残酷である

何人かの友達がその花束を取り

用水路にグチャグチャに沈めたり道路に投げ捨て踏みつけたりした

今日はザリガニ以上に面白い獲物が捕れた

笑いながら辺りを花で散らかす

女の子は少し離れた場所で不安そうに見ている

誰もやめない

皆騒ぎ疲れ辺りが暗くなりだした事もありそれぞれが家に帰りだす

僕も自転車にまたがり皆の後を追う

少し進んでから振り返る

用水路にまだ女の子が一人で残っていた

アレ?

一人じゃない?

自転車を止めた

線路の上にもう一人いた

大人の女だ

その女は頭をカクッカクッと前後に振って大きく目を見開き女の子の方を見ている

何か怖い

急に怖くなった僕は急い皆の後を追った

友達に追いつき今見た事を話す

友達は気にもとめないで

「あいつの母さんでしょ?前遅くまで遊んでた時迎えに来た時あったじゃん」

「あーそうだった」

自分を無理矢理納得させた

お母さんが迎えに来たんだ…

心でつぶやき自分に言い聞かせた

次の日も学校が終わり皆で用水路に集合し獲物探す

いつもと変わらない用水路

いつもと変わらない遊び

でも

女の子はいない

小学校も違う事もあり誰も気にしない

僕以外は

昨日帰りぎわのあの女

何回遊んでも何回用水路へ行っても女の子はいない

引っ越したんじゃないの?ぐらいで誰も気にしない

僕以外は

僕はその女の子に恋をしていた

小学生の淡い恋心

それから時が流れ進学の為地元を離れる時

ある場所へ向かった

あれ以来何年も心に留めておいた言葉を言う為に

線路沿いの用水路

ここに来てもあの女の子に会えるわけじゃない

そんなのは分かってる

「…好き…でした」

若い自分が新しい一歩を踏み出す為に

過去系で

言えるのなら直接伝えたかった

伝えておけば良かった

フッと風が吹く

風に背を押され用水路を後にする

小学生の時の後悔と淡い恋心を残して

昔の記憶

幼い自分

若い自分

そんな事を思い出し歩を進める

フッと風が吹く

懐かしい風

懐かしい香り

目に映る一人の女

記憶の女の子と目の前に立つ女が一つに重なる

確信する感覚

不思議と驚きはしなかった

そんな気がしてた

僕は迷わず歩を進める

あの時と変わらない香り

あの時と変わらない感情

捨て去れなかった感情

今なら伝えられる

「好きだよ」

過去系ではない

今もこれからも

現在進行形

目の前女は目を大きく見開きニヤニヤ笑いながら頭をカクッカクッと前後に振り続けた

どちらでもいい

僕は女を強く抱き締めた

最後まで読んで下さってありがとうございます

怖い話投稿:ホラーテラー 中学生さん  

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