中編5
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深夜タクシー

今から6年くらい前、毎日のように深夜まで残業しなければならない時期があった。

幸い大きな会社で何故かタクシーチケットが好きな様に使えたから帰りは毎日

タクシーだった。

そんな生活が3ヶ月ほど続いたある日、いつもなら会社に横付けしている

タクシーに乗って帰るところなんだがその日は何となく歩きたくなって、途中で

タクシー捕まえるつもりで少しだけ散歩する事にした。

しばらく歩いたところでタクシーを捕まえた。

思い出すと見た目から怪しいタクシーだったな。

個人タクシーで、随分古い車だった。

乗り込み、目的地を伝えると走り出した。走り出してすぐに「ヤバい」って

気持ちになって来た。

運転手は大体50過ぎくらいの小さめの男だった。

パンチパーマなのか、天然パーマなのか知らんが短髪で、金縁の眼鏡をかけて

くたびれたジャケットを着てた。

何故かすぐにラジオのチャンネルを英語放送をしている局に回す運転手。

聞いてもいないのに一方的に自分の話をしてきた。話し方はひどく乱暴だった。

運「あたしはね、こうやって英語の勉強してるんですよ。 学校なんて行っていなくてもね、こうやってるからそこらのヤツよか頭いいんですよ!」

運「それにね、毎日□○様に手ぇ会わせて拝んでるんでね、怖いモノなんかなんも無いんですよ」

運「こないだもヤクザ者二人乗っけたんですけどね、あんまりにも五月蝿いから車停めてやっちまったんですよ。 向こうも何かつっぱって脅してきましたけどね、こっちには□○様ついてますからね。 勝てる訳無いんですよ」

この間乗車して5分も経っていない…俺もタクシーには何度も乗っていて運転手の

話に合わせるのにもそれなりに慣れているつもりだった。

ただしそれは一般的かつ常識的な話が行われる事が前提であって、この時は違っていた。

言葉にできない圧迫感を感じながらも「どうせ20分くらいで着くから少しの辛抱」と

我慢していた。それでも運転手はどんどんと話を続けた。

運「ところでお客さん、今日は仕事ですか?」

急に俺に話を振って来た。 俺が「そうだ」と答えると嬉しそうに続けた。

運「やっぱりね、お客さんね。 頭良いかも知れないけど□○様に助けてもらわないといけませんよ。 そらぁもうあたしが言うんだから間違いねぇ。 どうです? あたしを見てご覧なさいよ。 力が溢れて仕方無いんですよ」

運「お客さんまだ若いし、頭も良いみたいだから今から□○様に毎日お祈りしてご覧なさいよ。 あっという間に力が出てきてすぐに上にいっちゃうから」

俺だってこれまでの人生で宗教勧誘を受けた事の一度や二度くらいある。

ただ、今は走り続けるタクシーという密室で、舵をどう切るかは運転手が

全権を握っている。必死に「興味が無い」事を繰り返し何とか話が終着点に

辿り着かないようにはぐらかした。

運「まぁそんな事言わないでさ、あたし幹部の人知ってますから。 ここからそんなに遠くないし紹介しますよ。 多分お客さん気に入られてすぐに上に行きますよ。 今までもあたしがお誘いした方達はあっというまに上に行っちゃってんで。」

ここまでタクシーに乗ってすでに30分。この時間にしてはあまりにも時間がかかっている。

メータを見ると時速30kmも出ていなかった。本格的に「  ヤ   バ   イ  」。

普通に走ればあと少しで家の真ん前に着くだろう。

ただ、この運転手を家の前まで来させていいのか?

それに、もし明らかに途中で降ろせって言ったら何されるか分かったモノじゃない。

考えられる最悪のケースは、こいつが怒り出す事でも、車を停められて延々勧誘される

事でも無く、幹部のいる場所まで連れて行かれる事だった。

細心の注意をはかり、降りるタイミングを捜しながら、ようやく地元まで来た。 

幸い大通りの交差点に差し掛かった時に赤信号で停まる事が出来た。

俺「あの角で降ります」

運「本当にいいの?幹部の人紹介するよ?」

もう既に深夜である事、疲れている事、明日も仕事である事を必死で説明して何とか納得させた。

運「それじゃ4xxx円ね」

正直高かった。通常よりも千円は高い。これはぼったくるとかではなくて、

あまりにもノロノロと走ったせいだと思う。もうそんな事を文句言う気力は

なくて、この空間から解放されるならもう千円払えと言われても払っただろう。

財布を開けると財布の中には一万円札しか入っていない。

タクシーチケットも持っていたが、会社がばれる事は避けたかった。

痛い出費だったが仕方が無い。

一万円札を渡すと、またしてもノロノロとお釣りを用意し始めた。

その間、ずっと「お客さん、悪い事言わないから□○様信じた方がいいよ?」

「あたしみたく力欲しいでしょ?」「今日だったら幹部の人紹介できるから」と

最後まで勧誘され続けた。

まずおつりの札5千円を受け取り、しばらく小銭を数えるフリをしながらやたら

時間をかけられた。最後、小銭を受け取る時は差し出した手首を掴まれてこう言われた。

運「こんだけ言っても通じないなんてあんたも随分頑固だね。 そんなんじゃ□○様に罰当てられるよ?  折角人が良い事教えてあげてるんだから、真面目に聞かないと。今からでも遅くないよ」

それでも何とか穏便に済む様に、卑屈な笑顔で次の機会にと諭し何とかタクシーを

降りる事が出来た。停車して会計にかかった時間、15分。

降りた後もタクシーは動き出さず、運転手は中から俺を見ていた。

俺は家と逆方向へ歩き、わざとコンビニによったり車が入って来れない神社の中を

通ったりしながら家へと帰った。

普段なら30分で帰れる所、この晩は1時間30分以上かかった。

いや実際宗教勧誘とかは自由だと思うけれど、あれほど身の危険を感じた勧誘は

後にも先にも無かったね。

主導権握られた密室でってのは本当に勘弁。

大した話でなくてすまんが、俺の人生で本当にあった恐い話でした。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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