俺が生まれた島では若人の過疎化が深刻だった。
当時唯一の高齢出産で生まれた俺は、まだ物心がついたばかりの頃に売り飛ばされることになった。ある日のこと、素性のわからない男女が島を訪れた。
男女は家に来ると、女はいきなり俺の頭を両手で掴み、目をぎょろっと見開いた。
今でも忘れられないが女は無表情な自分の顔を俺の顔に触れないギリギリまで近づけて、特に俺の眼を凝視した。
生まれて初めて記憶した恐怖。
女は連れの男の顔を見上げながら頷いた。
男は持ち歩いてきた鞄を開けると、中身は隙間なく詰められた札束で俺の両親に何かを説明して帰った。
その日の晩に両親は「あのね明日から一緒に暮らせなくなの…お別れしないといけないの。ごめんね、ごめんね…」と言っていた。
なんとなく意味を理解した俺は突然の事に泣き叫び、両親もまたずっと泣いていた。
翌朝になり男女が再び訪れた。
両親にしがみつき、必死で嫌がる俺を、男は強引に抱きかかえて連れ去った。
あれほど泣き叫んでいた俺を、島の人達は誰も気づかないフリをしたのだ。
船に乗ると泣きすぎて過呼吸を繰り返してた俺に、背後から呼吸をさせないように女が鼻と口を押さえた。
苦しさのあまり抵抗しようとすると、連れの男が両手を重ねてグッと俺の鳩尾を力強く押し出した。女は塞いでいた俺の鼻と口から手を離す。
男の加えた圧力で息が抜けていくと同時に頭がふわっと感じると意識が薄れてしまった。
気絶させられた。
目が覚めると俺はコンクリートの床に横たわっている。
目隠しをされ、手足を縛られていた。
聞こえてくるのは子供達の泣き叫ぶ声。目隠しを取られ、縛られていたロープが解かれた。
蝋燭の薄暗い部屋には俺と年の近い子供達が30人程いた。
どうやら同じように連れられたようだ。そこには顔がわからないように仮面をした大人が5人。
ここから大人は、俺達に一切の食事や水を与えず、順番に同じ言葉を何度も何度も言ってくる。
「お前達はお父さんお母さんに捨てられたんだ」
「お前達に生きる価値なんて無い」
「死ぬしかないゴミのお前達を拾ってやった」
小さい子供の精神や肉体では大人に洗脳されていくしかない。
いつしか反抗することも泣くこともしなくなった。
そこでようやく食事や水を与えられる。次に行われたのは蝋燭を円形に並べ、囲うように座らされると大人達が怪談話を始める。
続く
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話