中編4
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希望のカレンダー

とある店が在る。

俺は曰く付きなコレクション兼商品と店主の言の葉に乗せた挿話に魅了されている。

いつか手にする物を思い何度も訪ねてしまう。

そして今日も……

「やあ、いらっしゃい。今日もコレクションを見たいそうだね。存分に見ていってくださいな」

この店は会員制だ。

会員になる条件は一つだけ、いつか商品を買う事。

いつになるかは、客次第だそうだ。

特典は好きな時に品物を閲覧できる。

ここは、そんな店。

店に入るとと壁にかけてあるカレンダーに眼が行った

西暦のところが汚れて見えなくなっていが

とある日付にしるしがつけてある

「そのカレンダーが気になりますか?」

店主が話しかけてきた

「これも商品なんですか?」

「そうですよ」

「この日付は一体…」

「それを説明するには、ある不幸な男の話をしなくてはなりません」

「ぜひ聞かせてください」

「そうですか……それでは…」

店主の話が始まった。

それまで、少年の生きてきた10年間はいたって平凡なものであった

これと言って、特筆することのない両親の元に生まれ

小市民的な幸せに満ちた家庭で

適度な不満と満足を併せ持ちながら

順調に育まれていた

そんな少年がある日、交通事故に巻き込まれた

学校からの帰宅途中、友達との話に夢中で

ついつい横断歩道の信号を確認するのを怠った

そのとき、ちょうど走ってきた軽自動車に撥ねられ

少年はすぐさま病院に運ばれた

奇跡的ではあったが

少年は一命をとり止めた

背負っていたランドセルが

たまたまクッションの役割を果たし

致命傷から免れたのだ

そして数ヶ月がたち

少年は完全に回復し、通常生活に戻った

しかし、周りの人たちは

少年が以前とはすこし変わっていることに気づいた

「あの子は時々おかしな言動をとる…。」

医者は後遺症は残らないといっていたが

少年の中ではある変化が起こっていたのだ

それが、事故による原因で始まったのか

たまたま、この時期にそれが重なったのかは分からないが

少年は未来が見えるようになっていた

これから自分に起こることが分かってしまう

およそすべての人がそうだと思うが

「未来が分かればどれだけ幸せなことか…」

と思い描いた事があるだろう

少年もそれまでの短い人生の中で

何度かそう思い描いていたことがあったが

実はそれは、幸せでもなんでもないことだった

少年の見る未来は正確すぎた

見たことは必ず起こる

親、友人、学校の先生

少年は身近の人間にそれを打ち明けた

しかし、誰も信じては貰えなかった

なぜなら

少年がそのことを告げると必ず人はこういうのだ

では「これから起こることを言い当ててみろ」

しかし、少年に見える未来は

そこで何も言えず困り果ててしまう自分自身だった

少年の危言奇行を見た両親は少年を何度か精神科の医者に診せにいった

少年はそこで見世物のように扱われる自分を意識して以来

二度と人にそのこと言うことはなくなった

未来を変えようと努力したこともあったが

なぜかそれは出来なかった

それは必ず、そうなるべくしてそうなってしまう

未来が見えるとして

それが役に立つのはその未来を変えることができるからだと

少年は自覚した

やがて少年は大人になった

その頃には、男の心は何も感じなくなっていた

初恋の相手は、会う前から顔を知っていた

振られると分かって告白した

進路も自分で考えてその道を選んだのか

未来が見えたからその道を選んだのかも既に分からない

高校、大学と進学した

結婚相手も会う前から顔は知っていた

プロポーズもする前から結果が分かっていた

そしてそのすべてが、未来が見えた時点で

男にとっては過去のもののように感じられ

まるで見飽きた映画のようにつまらなく

何の感情も男の心に生まれなかった

自殺も何度なく考えたが

すぐにそれを実行できない未来が見えてしまう

よく比喩でレールの上の人生というが

男にとって人生とは、まさにそのとおりだった

男はラプラスの悪魔という言葉を大学時代に習った

要約すれば、世界のある時点を完全に定義することが出来るなら

そこから、ニュートン力学により

過去も未来もすべて見ることが出来るというものだった

それは量子論や不確定性原理によって否定されたが

男はアインシュタインが考えたように

それは人間に観測できない原理・因果律があるからだと思った

そうでなくては、この自分の現象を納得することが出来なかった

「世界は只ひとつであり、決められた道筋を追っているに過ぎない

 他の人はそれを自覚できないだけなのだ

 なんと幸せなことなのだろう…」

男はそう考えるようになった

晩年、老人になった少年は

ようやく救われるような思いがした

ついに未来が見えなくなったのだ

自分の呪われた人生についに終止符が打たれる

老人はカレンダーのその日に印をつけ

ひたすらにその日を待ち望むようになった

しかし、老人はその瞬間に再び

絶望に打ちひしがれる思いがした

見えなくなった未来が再び見えてしまったのだ

「それで、いったい何が見えたんです?」

俺は店主の最後の言葉を待ちきれずに聞いてしまった

「それが、この世の真実かどうかは分かりません…しかし老人は見てしまったのです…」

「だからいったい何を見たのですか?」

「自分の未来をですよ…」

それから店主は少し間をおいてこう続けた

「生まれた日生まれた場所に戻り、再び自分として人生を送る未来が……

 男は確かに未来を見る能力があったのでしょう

 しかしそれが

 男にとっては過去のもののように感じられ

 まるで見飽きた映画のようにつまらなく思えたのは

 過去そうして同じ人生を繰り返してきた、記憶だったのです」

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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