中編3
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待つ恋人よ

 ある噂を聞いた。“絶対に生還出来ない迷路があるらしい”という噂だ。詳しく言えば

迷路の入り口から入り

迷路の出口へ到達し

一度出口から外へ出て

再度出口から迷路の中へ戻り

入り口へ帰ってくる

というプロセスを踏み、生還した者がいないらしい。もしこの偉業を達成した場合、褒美として“一生生活に困らない”程の手厚い保障が受けられるらしい。

 面白い。私が第一の生還者になってやろう。そうなれば、私と私の恋人エリーゼは一生幸せに暮らしていける。

しかし、噂のこの迷路…入り口がいつでも開いているわけでは無いらしい。入り口が開いた時には連絡をくれるとの事だ。それまで、おとなしく待つとしよう。

 …あれから長い月日が経った。入り口よ…早く開いてくれ!!と私が願った瞬間、連絡が来た。遂に迷路の入り口が開いたらしい。私は急いで迷路の入り口へ向かおうとした…が、恋人のエリーゼが私を引き止める。

「あなた!!あんな迷路に挑戦するなんて、危険よ!!」エリーゼは泣きながら私を引き止める。「帰ってくる。私はこの世界に、必ず生きて帰ってくる。約束だ。」私はそう言って、エリーゼに背を向けた。

「私、待ってます。いつまでも…待ってるから!!」エリーゼが私の背中に向かって呟いた。エリーゼ…必ず帰って来るから…。私は心の中でそう誓い、迷路の入り口へ急いだ。

 よし!!迷路の入り口に着いたぞ。ほ~う…私以外にも参加者が大勢いるな。いやしかし、とてつもない数の参加者だ。だが…この迷路から生還するのはこの私だ!!

 大勢の参加者が、我先にと迷路の中へ入っていく。私も急がねば…む!?迷路の中を見た私は驚いた。なんと、迷路の中は水で溢れていた。成る程。泳いで進めというわけだ。面白い!!

 私は迷路の中を泳いで進んだ。体力の無い者は泳ぎ疲れて脱落していく。軟弱者どもが!!私はひたすらに泳ぎ続けた。先へ!!先へ!!

 やがて、気付けば私は先頭に踊り出ていた。他の挑戦者達は、私の圧倒的な速さについて来れなかった様だ。「全く話にならん。」他の者の軟弱さを嘆きながら、私は泳ぎ続けた。

 「ん!?あれは?」私は前方に何かを発見した。近づいてみると、どうやら休憩所の様だ。ふっ…気が利く。ちょうど泳ぎ疲れていた所だったからな。私は休憩所に入り、体を休めた。

 ふぅ~。この休憩所は心地よい。もう長い事ここで休んでいるな…いっその事、ここにずっといたいなぁ。私がそう思っていると、急に休憩所が動き出した…まるで、何かに押し出されるように。そして、眩しい光が私を襲った。

 何だ…何が起こった!?遂さっきまであった休憩所はどこに行った!?この眩しい光は何だ!?…私はパニックの余り、泣いてしまった。恥ずかしながら、泣いてしまったのだ。そんな私を、巨大な生物達が囲んでいる。その巨大な生物達は、泣いている私を見て笑っているのだ。おのれぇ…この屈辱、忘れんぞ!!

―数十年後―

「母上。俺が生まれた時、嬉しかった?」男はピアノを弾きながら両親に尋ねた。

「もちろん。あなたが生まれた時、私もお父様も嬉しすぎて笑いが止まらなかったのよ?貴方は大声を上げて泣いていたわね。」男の母は、懐かしむ様に答えた。

「そうか。俺…生まれた時の事、全く覚えてないや。…でも、何だろう?俺が生まれるずっと前に…何かを約束していた気がするんだ。大切な人とね。」男はそう言いながらピアノを引き続ける。

「あら…この曲。とてもいい曲ね。」母は、今男が弾いている曲をとても気に入った様だ。

「何故だろう?頭にメロディか勝手に浮かんで来るんだ…こんな事初めてだよ。」男は不思議そうに呟いた。

「曲名は何にするの?」母が男に尋ねた。

曲名は今決まったよ…

“エリーゼのために”

男はそう答えた

怖い話投稿:ホラーテラー 最愛さん  

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