短編2
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パンパン

十数年前に長期休みを利用して、友人敬之とN県〜F県〜I県辺りを旅行した時の話です。

道産子の私達は見慣れない瓦屋根や狭すぎる国道、うんざりする程の渋滞と、全てが初体験でした。

楽しい旅行だったのがA海八景なんとかって展望台みたいな所で、あんな体験をするとは思ってもいませんでした。

その駐車場に着いたのは夕方くらいで、辺りは誰もいなくてとても静かでした。

「謙介、丁度誰もいなくて静かだし少し休んでいこうか?」と敬之が言い出しました。

車で道内を走り、フェリーに乗り継ぎ青森からの長距離で疲れていたので異論はありません。

私達は窓を半開、シートを倒し横になりました。

目の前は海で、時折吹き抜ける風がとても心地がよかったのを覚えています。

ここまでの二日間ほとんど寝ていなかった私達は、熟睡と言ってもいいほど寝込んでいました。

コンコン

フロントガラスを叩く音で目覚めると辺りは完全に闇に包まれています。

『すっかり寝入ってしまったなぁ』と思い、運転席を見ると敬之が鼾をかいて寝ていました。

肌寒く感じたので窓を閉め煙草に火を点けると

「ウワッ!」

思わず叫んでしまい、その声に敬之も飛び起きました。

「どうした?びっくりさせんなよ…」と寝ぼけ眼の敬之。

「出せ…」

私は突然の事にうまく話せず、その一言を発するのがやっとでした。

「は?何を出せって?」

「頼む…早く車出してくれ…早く」

「何言ってる?…ったく、しゃあないな!」と敬之はエンジンをかけ、煙草とライターを取り出しルームライトを点けると…

「わ…わーっ!わーっ!」

敬之は何が起こったか理解出来ず叫び出しました。

私達の正面、フロントガラスに人が張り付いているのです。

ずぶ濡れで髪の毛が顔を覆い隠し、手のひらは骨が見えます。

パンパンに膨れ上がり、もはや男か女かなんて見分けがつきません。

敬之は慌てて車をバックして、タイヤを鳴らしながら駐車場から飛び出しました。

本当は道の駅で車中泊する予定でしたが、怖くて車で寝られないと言う事になり結局ホテルに泊まる事になったのです。

これが私の唯一体験した不思議な話です。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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