短編2
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ぼぅぼぅと

これは私の父が小学生の頃の話

当時、父は、祖父の仕事の関係上、小さな離島に住んでいた

祖父は航路標識事業、所謂、公務員の灯台守だった

祖父が任されたのは、その島で初めての電気式の灯台だったらしい

――ある雨の日の夜の事

昼から続く、台風の影響で祖父は灯台につききりで仕事をしていた

父は足が不自由な母(祖母)の代わりに、にぎりめしを届けるように頼まれた

だいたい、灯台守の住居は、灯台に併設された家が用意される

しかし、この灯台は急遽、建設されたばかりで住居まで手はまわらなかった

だから灯台と家は距離にして300は離れていた

「――気をつけてね」

祖母に念を押された父は、風呂敷ににぎりめしを包むと、降りしきる豪雨の中、ヨレヨレの合羽を来て家を出た

――グシャ グシャ

舗装もされていない道は、いつもの穏やかな表情とは違い、父の足にしつこく纏わり付くようだった

父は、胸に大事に抱えた風呂敷を雨に濡れないようにするだけで精一杯

途中で片方のズックをぬかるみのどこかで無くしてしまった

そのまま、灯台に到着して、見上げる

――ぎゅごごごご

――ぎゅごごごご

猛烈な突風で灯台自体がたわんで左右にゆっくりと揺れていた

父は風と横殴りの雨に声を掻き消されそうになりながら、ドアを叩き、必死に叫んだ

「父さん!開けて!僕だよ――」

――ギギギギ……

重厚な鉄のドアがゆっくり開いた。開口一番、祖父は意外な言葉を発した

「お前、片方のズックはどうした――」

父は、「ありがとう」という労いの言葉を期待していただけに、仏頂面で祖父を睨んだ

その雰囲気を察してか、どうかはわからないが一言

「仕方無い、早く中に入れ――」

中に入ると、祖父は机の横の衣紋かけに濡れた合羽をかけながら父に話した

「全国的には知らないが、昔からな父さんは上司に言われてたんだ……灯台に入る時は靴を揃えてから入れってな。ただのゲンカツギかも知れないが、ずっと守ってきた。だから最初にお前を見て、不安になったんだ」

椅子に座らされた父は、いつもより重いトーンで話されたものだから、子供なりに感じとり俯いてしまった

「だが、お前をこんな天気の中、外にだしたままにするわけにはいかないしな。まあただの迷信だ、気にするな――」

自分に言い聞かせるみたいに祖父は続けた

――何も無ければいいが

父には、微かにそう聞こえた

タオルで雨を拭い取り、椅子に腰かけて、あらためてみると灯台内部は意外に静かであった

祖父は、テーブルの向かいに着き、風呂敷を開け、にぎりめしを並べた。

それから二人で、もくもくとにぎりめしを食べた

続く

怖い話投稿:ホラーテラー 佐久間さん  

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