中編3
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近道

聞いた話ですので、真意の程は不明です。

夜の闇に一台の車が走っていました。

今日1日ドライブではしゃいで

遊びつかれた彼女は助手席で眠れる森の少女、

そんな彼女を起こさないようにと気を使いながら

静かにハンドルを握り家路を急ぐ彼。

何の変哲も無いカップルの、微笑ましい1日の終わりの風景でした。

彼はカーナビを持っていない為、初めて通る道で

時折出てくる標識を頼りに走っていたのですが

だんだん寂しい峠の方に入っていきました。

「道、大丈夫かな・・・?」

彼氏が少し不安になった時です。

「その先、左。」

と、突然隣から彼女が声をかけてきました。

「あれ?起きてたの?!」

「その先、左に行って。」

彼女は彼氏に返事をする事無く繰り返します。

彼氏は半信半疑のまま言われた方にハンドルを切ります。

「もうちょっと行ったら落石注意の看板があるの」

「その先は急カーブになってるよ」

「あ、本当だ。何で知ってるの?通ったことあるの?」

「次、右ね」

彼女が次々と案内してくれてまさにそれが合っているのです。

彼氏は感心しながらもなんだか一抹の不安を覚えていました。

さっきからナビ以外、自分の問いかけに返事をしてくれないのです。

そして少しもこちらを見ようとしないのです。

何だかおかしい。今日初めて行ったと言っていたのに

何故こんなに詳しいんだろう?

どうしてオレに返事をしてくれないのだろう?

なんだか・・・いつもの彼女じゃない。

だんだん不安が増した頃

「そこ、まっすぐ行って。」

と指をさされた先を見るとガードレールでした。

「おいおい、アホか。何言ってるんだよ?まっすぐ行ったらガケじゃんか。」

彼氏は笑って答えました。

「いいの。近道なの。まっすぐ行って」

彼女は当然の様に言います。

ずっとガードレールの先を見ているその表情は

暗くてわかりません。

「・・・冗談止めろよ」

彼氏は喉の渇きを感じながら、声を搾り出すように答えました。

ハンドルを握る手には嫌な汗が出てきます。

「行ってよ」

彼女がブツブツ繰り返す間にガードレールが迫ってきます。

段々声のトーンが低くなっていくのが

更に彼氏を恐怖に駆り立てます。

「行ってよ、行ってよ・・・まっすぐ行って・・・」

でももしかしたら本当に近道があるのか?

さっきまで正確にナビしてたじゃないか。

いや待て、でもガケだったら・・・死ぬんじゃないのか?!

彼氏はパニックで体が動きません。

その時!

「行けえ!!!」

「うわあああ!」

地の底から響くような、彼女の低い声に

彼氏は無我夢中で叫び、ハンドルを切りました。

車はギリギリの所でカーブを曲がりました。

汗をかきながら息を整えている彼氏を睨みがら

彼女は今まで見たことも無い恐ろしい顔で

「ちっ」、と舌打ちをしてまた眠ってしまいました。

峠を抜けてから彼女に聞くと何も覚えていなかったそうです。

怖い話投稿:ホラーテラー 1ヒメさん  

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