中編7
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あれから11年

皆様、ご無沙汰致しております。

【ばあちゃんと靴】の作者のRです。お久しぶりです。

ばあちゃんが死んでからも様々な妙な現象が起きています。そのことについて、投稿させて頂きます。

――…

ばあちゃんが死んでから何年経つだろうか。

8歳だった俺が19歳になった頃の話。母はもう46歳。白髪が目立つようにもなり、体の弱い母は寝込んでばかりだった。

俺は高校には通わなかった。中学校卒業と同時に働き始めた。

ばあちゃんが残してくれた、じいちゃんの靴。今は足が入らなくて履いていないが、いつだって玄関に踵をそろえている。

ばあちゃんに怒られてしまう気がして。

19歳の冬。俺には冬休みなんてものがなく、料理から洗濯、主婦がやるようなことを俺は1人でやった。

そんなある日。俺が洗濯をしていたときのことだ。

「ごめんください」

玄関へいってみると、そこには同い年ぐらいの女の子と近所のおばさんが来ていた。

「おばさん?!」

「あら、良太くん。お久しぶりじゃな。ところで、お母さんはいまはる?」

「いはりすよ。どうぞ」

おばさんと女の子をあがらせた。

寝込んでいる母の部屋(和室)におばさんが行き、何やら会話をしているようだった。

俺は女の子にお茶を出した。

「ど、どうぞ…」

「ありがとう」

とても可愛い子だった。

きっとおばさんの娘さんだろうと、俺は思っていた。

「良太…くんだっけ」

「あ、はい」

「私、愛子っていうん。よろしく」

「よろしくお願いします」

「ちょっと〜」

「え?」

「なんで敬語なん?私のほうが年下じゃけん。私、16だもん」

16歳とは思えないほど、大人っぽい人だった。

俺は唖然とした。

そこへ、おばさんがやって来た。

「良太くん。お母さん寝込んだままで、家事とか大変だろな。だから、おばちゃんと愛子がたまに手伝い来てやっからよ、安心しんべ」

「あ、ありがとうございます!」

それから畑仕事など、近所の人たちがたくさん来てくれた。

お金が少しずつ貯まり、俺はこの調子で借金を変えそうと考えた。

「お疲れさまです」

畑仕事を手伝ってくれた人にそう言い、家に戻ろうとしたとき。

「良太くーん」

振り返ってみると、そこには愛子ちゃんの姿があった。

「愛子ちゃん?」

「これ、お母さんが持っていけって、うるさんのよ」

愛子ちゃんは俺に鍋を渡した。蓋を開けてみると、そこには美味しそうな大学芋があった。

「芋だ!」

「そら、芋じゃけ?そんな珍しいもんでもなか」

「芋なんて食べるの何年ぶりじゃろ。ありがとう、愛子ちゃん!おばさん礼言っといてな」

「うん!」

「あ、よかったらあがってく?何もないけど、お茶ぐれぇならあんべ」

「今日はいいよ。私、明日学校じゃ。また今度」

「そっか。わかった。じゃ気付けて帰ってな」

「うん!」

そう言い、愛子ちゃんは帰った。

家に戻った俺は、母のうなり声に驚き、鍋を玄関に置き、和室へと向かった。

「母さん!?」

苦しそうに藻掻く母は、枕元に置いてあった盥に嘔吐する。俺は何度も母の背中をさすった。

母はいつもこんな感じで、痩せ細くなってしまっている。

薬のせいで髪が抜けたり、骨が弱くなって歩けなくなっている。

まるで、死んだばあちゃんを見たあの日が毎日続いてるように、俺にとっては辛かった。

母を寝かし、ようやく落ち着いた頃。俺は鍋を居間に運び、風呂へ入った。

風呂からあがってみると、玄関のドアが少し開いていた。

あれ、閉めたはずなのに。

俺は玄関へ向かった。そして、ドアを開け、外を見てみた。

……キッ…チャキッ…。

ハサミで何かを切るような音がした。

きっと近所の人が畑にいるんだろうと、俺はドアを閉め、鍵をかけた。

翌朝。俺は母が起きないように、そーっと仕事に向かった。

畑にいってみると、真っ赤になったトマトがなっていた。

ハサミを片手にトマトを切ろうとしたとき。俺の横の視界で誰かが家のほうへ向かっていったのがわかった。

俺は不審に思い、ハサミを置き、小さい頃に使っていた野球バットを持って家に入った。

家には母さんがいる。

貧乏なうちに金なんかないのに、そう思い、玄関にサンダルを放り投げ、バタバタと走りながら居間へいった!

誰もいなかった。

和室からは母が咳をするのが聞き取れる。気のせいだったのか。

俺はハァとため息を吐く。

そしてまた横の視界に影が映った。体中、鳥肌が立った。

影が動いた方向的に玄関のほうだ。俺は即座に走っていってみたが、誰もいなかった。後ろを振り返り階段も覗いてみるが、何もなく。風呂場にもトイレにも、何もなかった。

母さんもいる。なんだったんだろうと、また畑に戻ろうとしたとき。

俺の体は凍りつくように冷えた。

サンダルがそろっていたのだった。

不審が入ったかもしれないのに、靴なんかそろえているバカはいない。

俺はまだばあちゃんが家にいるということを感じた。

仕事が終わり、夕方愛子ちゃんと川沿いでそのことを話した。

「すごいね、そうゆうの」

「俺ほんと驚いた。ばあちゃん、母さんが結婚してから、ずーっと1人であの家にいたから…」

「彷徨ってるかもしれんばい」

「え?」

「死んだ人は天国にいかせへんと、永遠に天国にいけなくなるんよ?」

「そうなったら、どうなん?」

「死者がこの世におっても住む場所がちげぇさ。ただひたすら苦しむだけ」

ばあちゃんは、俺が心配なんじゃろ?でも、今の俺には愛子ちゃんや近所の人だがいるから、大丈夫じゃ。俺は1人じゃないだ。

俺は帰り道、そう思いながら帰った。

それから3年。畑を耕しては、工事で働く生活を続けてきた俺は、22歳。働いたお金で借金を全て返し切った。

そして、あの日愛子ちゃんに言われたことが気になり、庭に植えたヒマワリの近くに線香をたて、じいちゃんの靴を置いた。

祈るように、俺はばあちゃんが無事天国にいけるように願った。

何時間ぐらい願っただろう。

目を開けたときには、すでに線香は半分ぐらいなくなっていた。

3年前も同じことをしたっけ。

でも、やっぱりばあちゃんがいるような気がして、無茶苦茶になっていた。

家へ戻り、母のために作ったお粥を持っていった。和室に母さんは寝ていた。

「母さん。お粥持ってんきた」

「…」

「母さん。食べへんの?」

「…」

「母さん?」

49歳とは思えないほどに痩せてしまい、骨が浮き出た手に触れたとき、母さんは冷たかった。

「か、母さん!?」

「…」

「母さん、死なんといて!俺を1人にせんといて!母さん!母さん!母さん!!」

何回「母さん」と呼んだだろうか。自分でも覚えていない。

6畳半しかない和室で、俺の家族は死んでいった。

葬儀が終わった頃、家の前でタバコを吸っていた俺の元に愛子ちゃんが来た。

「良太くん」

「…」

「元気出してぇな?」

「…」

「そら、お母さん体弱かったし、がん病だったよ?でも最後まで頑張って生きたやん」

「…」

「いっつまでもイジイジすんなや、みっともない!」

「…」

「なんねん、あんた!少しは前向きに生きたらどうなんよ!1人じゃないことぐれぇわかっとるくせして!」

愛子ちゃんは、そう怒鳴り付け姿を消した。

愛子ちゃんの言う通りかもしれない。人が死ぬということは重いことだ。でも、重いからといってずっと落ち込んでても意味がない。

俺は前向きに生きてみようと、決断した。

24歳の秋。俺はあれから愛子ちゃんと話すこともなくなり、ただ働く人になった。

横の視界に入った影も現れることがなくなった。

ばあちゃんと母さんが死んだ和室を掃除していたときのこと。部屋を入ったとこから右にいったとこにある机の引き出しに封筒が入っていた。

なんだろう、と開けてみると、そこには10万円が入っていた。

「西宮様…?俺んち宛てだ」

封筒の裏を見てみると、そこには丸い文字で『大河愛子』と、書かれていた。

愛子ちゃんが、俺のために10万円ものお金をくれたのだ。

俺は即座に走った。

「愛子ちゃん!」

「良太くん…」

「これ、どなんなこと?」

「どなんなことって10万じゃけ」

「なんで10万円もうちにあんじゃゆうてん!」

「くれてやっわい!」

「え…」

「お母さんの介護と畑と家事、全部あんたしとったから、心配やったん!」

「愛子ちゃん…」

「初めて家いったときにお母さんに渡しといてもらったん。それだけのことじゃ、文句あっか!」

愛子ちゃんは涙ながらにそう言った。

俺はそのとき愛子ちゃんを抱き締めた。ばあちゃんが死んで、母さんが死んで。精神的にもボロクソだった自分に、ただ1人だけ最後まで見放さないでくれた人がいたことに、俺は涙した。

――…

あれからのことはお恥ずかしいので投稿致しませんが、現在の妻が大河愛子さんです。

横の視界に入ったあの影は、ほんとにばあちゃんだったのか、今も不思議です。

あまり怖くない、下らない話申し訳ありません。

ここまで読んで頂き、ほんとにありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー Rさん  

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