短編2
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山姫1

あれは6年前。

ちょうど夏も終わりを迎え、秋の匂いが風に運ばれやってきた、6年前の10月。

夏草の蒼苦い匂いと、秋の訪れを告げる色褪せた匂いが入り交じった、何とも言えないあの不思議な感覚をまだ僕は覚えている。

別に詩人の様に浸りたい訳ではないが、あの時の“匂い”は未だに鮮明で、その時の“感情”と結び付き、永遠に忘れる事はないだろう。

そう、これは僕らが大学4年生だった頃の話だ。

大学4年生の後期、夏休みを終え、しばらくぶりに僕は大学へ行った。

夏休みといってもほとんどが就職活動の毎日で、夏休みの約1ヶ月半全てをそれに費やした。しかし夏休み返上の甲斐あって、第一志望の企業という訳にはいかなかったが第二志望の中堅企業に内定が決まり、軽い足取りで大学へ向かった。

その年も不況であり、就職氷河期と呼ばれていた中で、まぁまずまずと言う所だろう。

久しぶりの大学へ着いた後、仲の良いゼミの友人3人と会い、互いの夏休みの話に花が咲き学内のカフェテリア(食堂)で僕を入れた4人で談笑していた。

なんとか僕達4人とも就職が決まり、どこかへ旅行に行こうか、という話になった(ここでは友人3人の事をA・B・C、僕はケンジという事にしておく)。

僕「せっかくおれら運よく内定ゲットしたんだしさ、パーッとどっか行くか。」

A「いいな!それ。あれだよ、温泉行こうぜ。〇〇県辺りにいい感じの温泉宿あんだよ。痛風にもいいらしいしな、その温泉。」

Aが痛風だということをその時知った僕らだった。

C「まぁ温泉もいいけどよ、ちょっとおれ、前から来になってた所あったんだよねー。」

B「なんだよ、それ。スノボとか?」

C「バカ、まだシーズンじゃないだろ。登山だよ登山。K県のY島って知ってんだろ?今の時期だったらだいぶ涼しいだろうしさ、それに紅葉も見れると思って。世界遺産だぜ?」

A「アウトドアだねぇ~。

痛風にいいのか?登山って。」

僕「痛風にいいのか悪いのかはわかんねぇけど、体には間違いなくいいだろうな。」

B「まぁ面白そうじゃん!行ってみようぜ。せっかくだし2、3泊くらいしてさ、宿泊まって温泉入って酒飲んで‥」

などというやりとりをして、僕らはCの提案したK県のY島に行く事になった。

僕自身、登山なんて小学生ぶりくらいだったし、何より仲間同士で最後になるかもしれない小旅行が楽しみだった。

あんな事が起こるまでは。

2に続きます。

怖い話投稿:ホラーテラー ケンジさん  

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