中編5
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隠滅のツケ

生まれて初めての殺意。

妻の傲慢さに、我慢の限界を越えた。

殺意に身を任せた。

包丁には赤い液体が滴っている。

頭が冷えていく。

とんでもない事をしてしまった。

捕まりたくない。

刑務所なんて、真っ平だ。

必死に考え、証拠を隠滅する事にした。

前に読んだ小説から得た知識。

まず、顔が解らないように叩き潰す。

特に口は念入りに。

歯形から身元が割れる確率が高い。

次に指紋を焼き潰し、両手足の指を切断する。

妻の体を作業のように、何も感じずに破壊する俺は、壊れているのかもしれない。

指を袋に詰めた。

妻を毛布にくるみトランクに押し込んだ。

人目に付かない山まで埋めに行く。

何も感じずに車を走らせた。

車を止め、トランクを開ける。

死体を担ぎ上げる。

妻の重さに、少し寂しさを感じた。

死体を埋める場所を探す。辺りを見回し、良さげな場所を見つけた。

妻を下ろし、穴を掘る。

一掘りごとに悲しみが込み上げてくる。

何故か涙と、妻と過ごした日々が溢れてきた。

泣きながら穴を掘った。

半分まで掘った時、人差し指に痛みが走り、手を止めた。

何故か掘る度に、痛みが増していく。

掘るのが辛い。

腕時計を見る。

急がなければならない。

帰りの事、それに仕事を休めば疑われる。

普段と違う行動を取る訳にはいかない。

痛みに耐え、穴を掘り終えた。

毛布にくるまれた妻を穴に入れ土を被せる。

指が痛む。

それに、何かを忘れている気がする。

時間がない。

焦りが増し、頭が働かない。

仕方なく穴に枯れ葉や枝を置き、その場を後にした。

帰りの車の中、妻の顔がちらつく気がする。

それに指先が痛む。

どちらも気のせいだと、自分に言い聞かせた。

家に着き、自分の間抜けさに唖然とした。

指の入った袋を忘れていた。

あの時に感じた事はこれだった。

埋めに行きたいが、今からでは無理だ。

それに、死体とは別の場所に埋めなければならない。時間を確認しようとして、また唖然とした。

無い……

腕時計が。

何処で無くした?

答えが出ないまま、仕事に向かうしかなかった。

仕事中は絶えず落ち着かない。

時計の事、家に置いてきた指が気になる。

なにより気になるのは、妻の気配を感じる事だ。

妻の顔が視界にちらつく度に、指先が傷んだ。

焦りと痛みで仕事どころではなかった。

なんとか仕事が終わった。飛んで帰る。

家に着き、異常がないか確かめ、溜め息を吐いた。

指を捨てに行かなければならない。

時計も探さなければならない。

指の入った袋を見ながら、深夜になるのを待った。

焦りから、いつもより時間が長く感じた。

深夜になり、袋を持ち山に向かう。

妻の気配を強く感じる。

気のせいだと言い聞かせ、アクセルを踏んだ。

妻を埋めた場所に着いた。埋めた時と何も変わっていなかった。

まず、時計を捜したが見つからない。

一緒に埋めてしまったのかもしれない。

覚悟を決め、スコップを差し込んだ。

妻を埋めた深さまで掘った。

額の汗を拭い、スコップに力を込め、土を掬う。

何か白い物が顔を出した。

目を疑った。

おかしい。

何故だ?

どうして妻が着ていた服が見える?

毛布にくるんだ筈なのに。確かめる為に、さらに掘る。

何か固い物に当たり、手を止めた。

確認をする。

妻の左腕だった。

見た瞬間に息が止まり、恐怖に体が震えた。

ありえない。

どうしてだ?

妻の左腕には、俺の腕時計が嵌まっていた。

落ち着け、冷静になれ。

自分に言い聞かせる。

どうすべきか考える。

もそり……

妻が動いた。

頭が真っ白になった。

持ってきた物を引っ掴み、叫び声を上げながら車に走った。

怖い。

ただ怖い。

これ以上、此処に居るのは自分には無理だ。

震える手でエンジンをかけ車を出した。

距離が離れて行くにつれ、頭が冷えていく。

死体が動く筈がない。

あれは罪悪感からくる幻覚だ。

土が崩れ動いたように見えただけだ。

穴をそのままにしてきた自分に腹が立つ。

それに、また指の処分が出来なかった。

自分の迂闊さを呪いながら家に辿り着いた。

指の入った袋をテーブルに放り投げた。

力が抜ける。

ストレスと極度の緊張が意識を途切れさせた。

痛みで目が覚める。

人差し指に激痛が走る。

霞む視界で手を見た。

短い悲鳴が口を割った。

グチャグチャの顔、口と思われる穴が指を噛んでいる。

だが、歯の感触ではない。万力で締め付けられているような激痛。

俺が潰した顔。

雰囲気と衣服、決定的なのは左腕の時計。

妻だと理解した。

反射的に手を振り払う。

離れない。

叫びながら蹴りを入れる。さらに痛みが増し、転げ回った。

痛い痛い痛い。

滅茶苦茶に手を振り回した。

何かを磨り潰すような鈍い音と同時に、悲鳴を上げた。

妻が指を吐き捨てた。

人差し指を食い千切られた。

激痛に意識が飛びかける。そして、新しい痛みに意識を引き寄せられた。

指が無く掌だけの手で、器用に俺の手を抑え、中指を噛み始めていた。

痛すぎる。

じわじわと、磨り潰される激痛。

耐えられる痛みではなかった。

いっその事、早く噛み切ってくれと願った。

願いは叶わない。

妻の歯を叩き潰した事を後悔した。

鈍い音。

聞くのは二回目。

悲鳴を絞り出した。

もう許してくれ。

泣きながら懇願する。

まったく聞き入れられず、妻は次の指を噛み始めた。

地獄だった。

気絶も許されない。

ゆっくりと、指が磨り潰され無くなっていく。

五本目辺りで、喉が潰れ悲鳴も上げられなくなった。七本目、気が狂わなかったのが不思議だった。

死ぬ程の激痛と恐怖の中で、俺は早く終わってくれと願う事しか出来なかった。

やっと終わりが見えてきた。

最後に残っていた親指が無くなった。

激痛よりも、終わったという解放感の方が強かった。

潰れた喉で必死に声を出し謝った。

俺が悪かった……

満足だろ、もう自首するよ……

蚊の鳴くような声しか出ない。

聞こえたかどうか解らなかった。

妻は俺を見ていなかった。妻の見ている方には、袋があった。

袋を見て、ある事を思い出し、生まれてこなかった方が良かったと思うような、恐怖が頭に浮かんだ。

嫌だ!!

もう許してくれ!!

出せぬ声で必死に叫んだ。

妻が、何かを擦り合わせるような声で呟いた。

まだ……だーめ……

そして、妻はゆっくりと俺の足を持ち上げた…………

怖い話投稿:ホラーテラー 月凪さん  

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