短編2
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ありがとうと愛を

彼が目の光を失ったのは、私を助けようとしたから。

その時から誓った。

一生をかけて恩返ししようと。

私が彼の目になろうと。

彼はとにかく優しかった。

目が見えなくても

私の名前を呼んでそっと抱きしめてくれる。

傍にいてくれてありがとうって言葉に何度も何度も心が暖かくなった。

私たちは毎日一緒にいた。

私が彼の目になろうと決めた日から。

時には喧嘩もする、でもすぐに仲直りする。

毎日幸せだった。

月日が流れそんな彼も私も大分歳をとってしまった。

いつものように彼は言う。

『いつも傍にいてくれてありがとうな』

私は何も言わずそっと手を添える。

彼もすっかりおじいちゃんになってしまった。

穏やかな時間が流れる。

言葉なんかなくても心が通じている。

私は幸せだった。

私達ももう寿命は長くない。

私は最後に天に願った。

『神様、私が先に命を差し上げます、どうかもう一度だけ、彼に光を与えてください…』

私の願いは届いただろうか。

次の日、二人で散歩に出掛けた。

夏にたくさん咲く向日葵畑へ彼を連れてきた。

『花の匂いだね…何の花だろう』

彼は穏やかに笑う。

私は一本向日葵を拝借して彼に渡した。

『向日葵だね…あぁ、ありがとう』

彼は嬉しそうに花の形を何度も確かめた。

私はその嬉しそうな顔を見たのを最後に静かに目を閉じた。

私、貴方が大好きでした。

優しそうに笑う顔、声、そして言葉が大好きでした。

いつも私を傍に居させてくれてありがとう。

『…お前が死んでから俺の目に光が戻った。

お前が最後に起こしてくれた奇跡って言う名の恩返しだったんだろう?

あの日お前を事故に遭いそうになった時に助けて以来、俺は視力を失った。

でもお前が傍にいてくれた。

それだけで何不自由なく今まで生きてこれた。

本当にありがとうな』

男はそう言うと立派に立った墓前に向日葵一輪とカードを置いた。

カードにはこう書かれていた。

『立派に活躍した優秀たる盲導犬に捧げる、ありがとうと愛を。』

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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