短編2
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犬の知らせ

目の前には、茶色の毛色の犬がいた。

犬は、『こんばんわ』と言った。

『え!?犬が喋った!?』

驚いて声に出た。

『死んだら喋れるようになったんです』

犬は、淡々と言った。

オレは混乱していた。『まあ落ち着いて聞いて下さい』

落ち着ける精神状態ではなかったが、頑張って出来る限り心を沈めて耳を傾けた。

犬は、『あなたの実家、犬居ますよね。タロって名前の。タロねもう死期が近いんですよ』

オレは目の前で犬が喋っているということよりもタロがもうすぐ死んでしまうということにショックを受けた。

『あなた明日から仕事、三連休でしょ?タロに会いに行きなさい』

犬がオレに命令っぽく言った。

オレはこの犬は何者なんだろうと思った。犬は、『なあに虫の知らせならぬ犬の知らせですよ』と言うと消えてしまった。

オレは、車で急いで実家に帰った。庭の犬小屋にタロの姿はなかった。

母に尋ねると、『タロはあの部屋だよ』と教えてくれた。

オレは、部屋の戸を勢いよく開け『タロ!』と呼んだ。

タロは弱々しく尻尾を振り、オレを見つめるだけだった。

母が、タロが医者からもう長くないと診断されたことを教えてくれた。

死期が近いことを聞かされていたが、タロの姿を見ると堪えきれず涙がこぼれた。

三日間、タロの側で過ごした。帰りの車の中でタロの小さい頃の写真を見て泣いた。

家に帰って5日目の夜、目の前にタロが現れた。

オレは、タロが死んだことを悟り泣いた。

『行かないで!』と無理だとわかっているのに震えた声で叫んだ。

タロは『今までありがとう』と言いオレの涙を舐めて拭ってくれた後、消えてしまった…

オレは一晩中泣いた。次の日の朝、電話が鳴った。タロが死んだという母からの知らせだった。

泣き尽くし涙は枯れ果てていた。

母は、最後にタロが、オレが昔、あげたオモチャを大事そうに側に置いて死んでいたことを教えてくれた。

聞いた瞬間、枯れたと思っていた涙が溢れた。オレは、大粒の涙を流しながら震える声でタロの名前を呼んだ。

怖い話投稿:ホラーテラー さださましさん  

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