極楽荘
センスを疑うこの名前
そこは有名な心霊スポット
ある会社の外国人寮の名前だ
今は建物すら無くなっている
これは取り壊される前の話
俺は友人Aと一緒に極楽荘に来ていた
そこが近々取り壊されると聞き、その前に行っておこうという話になったからだ
正面玄関の鍵はかかっていない
最初の部屋のドアを開ける。六畳ほどの部屋の中には二段ベッドが2つ置いてある。恐らく一部屋に四人で暮らしていたのだろう。この狭い中に男四人…俺には耐えられそうもないな
その後も順番に部屋を見て回るが、特になにもない。全て同じ構造、同じ二段ベッド
一階、二階は全て見た。そして三階
三階に上がった時、少し違和感を感じたが気にせず探索を続ける
引き続き順番に部屋を見て回っていると、大きな部屋が一つだけあった。一、二階にはなかった部屋だ
その部屋は異様だった。奥にもう一つ部屋があるようなのだが、ドアは無く変わりに板が無茶苦茶に打ち付けてある。
板の隙間からAが中を覗く。その瞬間、Aが尻餅をついた
俺は慌てて駆け寄る。なにがあったか聞いてみるがAは奥を指差し
「眼が…眼が…」
そう繰り返している
俺も覗いてみようと板に近寄ろうとすると、Aが俺の腕を掴み
「駄目だ…帰ろう…」
そう言って俺を引っ張った
俺も覗いて見たかったが、渋々帰ることにした。歩いている間、Aはずっと無言だった
帰りの車の中でようやくAが口を開く
「俺が覗いたら、向こうからもこっちを覗いてた…俺が後ろに倒れたら、全部の隙間から眼がこっちを見てたんだよ…」
震える声でそう話すA
俺には見えなかったが、Aには確かに見えたらしい
その日からAは隙間を怖がるようになった。最初の数日間は部屋の隙間を全てガムテープで塞いでいたほどだ
あれから数年たち今ではだいぶ落ち着いたが、時々眼が覗いている気がするらしい
この話をする時、Aはいまだに全身を粟立たせ隙間を警戒して体を震わせる
怖い話投稿:ホラーテラー Mさん
作者怖話