中編3
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登る人形

私がまだ小さかった頃。

家にあるピアノの上は人形やぬいぐるみが山積みにされている状態だった。

姉と私でその山から何体かの人形やぬいぐるみを取り出しては、二人してよく遊んだものだった。

今は数体のぬいぐるみを残すだけとなっているけれど、当時は本当にたくさんの種類の人形・ぬいぐるみがあったのを覚えている。

その様々な種類の人形の中のひとつには、当時人気のあった「セーラームーン」に出てくるセーラーマーズの人形もあった。

「セーラームーン」の他のキャラクターの人形数体と共によく使って遊んでいたのだが、幼心に、私はなんだかそのセーラーマーズの人形が好きになれないでいた。

理由は単純。なんだか他のキャラクターの人形とどこか異質な感じがしたからだ。

つくりとしては、表面全体はフェルトで出来ており、「人形」というかは「ぬいぐるみ」に雰囲気が近かったのだが、どうやら骨幹が太めの針金で出来ているらしく、足や腕がくにゃくにゃと動かせるようになっていた。加え、特に曲げた覚えはないのだが、当時もう既に足や腕がなんとなく歪んでいた人形だった。

他のキャラクターがプラスチック製?のしっかりとした人形だっただけに、なおさらその異質さが際立っていたのだ。

しかし一緒に遊んでいた姉はその人形の見た目について特に何か言ったためしがなかったため、どこか拭いきれない違和感はあったが、私も普通にセーラーマーズで遊んでいた。

ある日、私は真夜中にはっと目を覚ました。物凄く怖い夢を見たのだ。

ああ怖かった…と一息ついたところで、横になった状態のまま、ふと視線を左上に向けた。なんとなく、である。

そうして、またもやはっとさせられた。

私と姉は当時二段ベッドで寝ており、妹の私が下の段、姉が上の段に場所をとっていたのだが、その二段ベッドを支える柱の一本、そこに、あのセーラーマーズの人形がしがみついているのを見たのである。

ただただ驚き、そこを一心に見つめていれば、おもむろにその人形は腕をぎこちなく動かしながらその柱を登っていく。まるでスローモーションの映像を見ているかのように、ゆっくりゆっくり、上へ上へ。

…が、そこで、はたと人形の動きが止まった。私はそこから目が離せない。ゆっくり、ゆっくりと人形の首がこちらを向く。人形の張り付いたその笑顔がだんだんと見えてきて、…あっ、だめだ、と私は弾かれたように目線をそらした。

これは夢だ、夢夢夢、夢…と、遅れてやってきた恐怖感と共に背筋を寒くしながら、心の中で必死にそう念じた。

夢だ、きっと。

延々と念じ続ける内、私はいつの間にか寝入っていた。

翌日。昨夜の出来事の恐怖を未だ引きずりながら目覚めた。

しかし、朝になってから改めて思うと、やはりあれは夢だったのかもしれないなという思いが強くなっていた。あんな夜中に目が覚めたんだ、きっと寝ぼけていたのだろう。

そう思いつつ、何とはなしに二段ベッドのすぐ横にある姉の勉強机を見た瞬間、私はみたびはっとさせられた。

昨日の、夢じゃなかった。

そこには、変わらぬ笑顔を見せるセーラーマーズの人形がいたのだった。いつもはピアノの上にいるはず、だったのに?

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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