短編2
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初体験

 相も変わらずネットで恐い話探し。

 ある投稿サイトにこんなことが書かれていた。

「(心霊体験などに)触れていることでだんだんとその世界に近づいていく気がする。魅入られた者を向こうから誘いにくるのかもしれない」

 その意見には多くの人が賛同していて、怪談を読みまくっていたらそれまで見えなかったものが見えるようになったとか、身の回りで不思議なことが多く起こるようになったなどの書き込みが寄せられていた。

 でも、その時は「まあ、なんか、不思議、かな?」くらいにしか思っていなかったのだが、先日、恐怖に心臓を鷲摑みされるような出来事に遭遇した。

 時刻は午後9時。俺はいつものように風呂に入った。

 窓の外では激しい雨音。時折、雷の音と光が飛び込んでくる。

 嫌な予感がした。舞台設定は完璧だからだ。

 ネットで「風呂の蓋を開けたら、湯に浮かんでいた女の生首が笑いかけてきた」という話を読んだばかりだったせいでもある。

 「やだなー、なんかやだなー」と稲川淳二風に囁きつつ、頭からシャワーを浴びた瞬間だった。

 いきなり電気が消えた。

 「ひっ…」息を飲みながら風呂の外を見るとそちらも真っ暗。どうやら停電らしい。

 途端、

 ぬるり

 「何か」が俺の背中に触れていた。

 有り得ない。俺の後ろには壁しかない。

 虫などでは断じてない。風呂場に入ったときにはそんなものどこにもいなかった。

 何よりそんな大きさじゃない。例えればそう、

 ちょうど人間の手の大きさくらい。

 ぬるぬるとしたその感覚に全身が総毛立つ。

 まるで、長い時間水の中にあってふやけたような…

 それが、ぬるりぬるりと俺の背中を下に向かって撫でていく。

 そのとき、稲光が風呂場内を明るく照らした。

 フラッシュのようなその光が、当たった部分を鮮やかに、当たらない部分の影をより濃く俺の目に刻みつける。

 そして俺は見た。鏡に映る自分の背後を。

 そこには何もなかった。

 俺の背後には何もなかった。やはり壁だけだった。

 でも、俺の背中には相変わらずぬるりとした感触。

 今までに読んだ体験談によれば、こういうパターンでは必ず背後に「然るべきモノ」がいるはず。それがいないってことは、その正体が物の怪の類ではないはず!(←すごい決めつけ)

 そう考えて少し余裕を取り戻した俺は、恐る恐る手を背後に回してみた。

 俺の指が「それ」に触れる。ぶよぶよとした何か。

 思い切って掴み、目の前に持ってくる。窓から入る雷の光に浮かび上がったそれは

 サロンパス。

 濡れてぬるぬるのぐにょぐにょになったサロンパス。

 前の晩、背中が痛くて妻に貼ってもらったのを忘れてた。

 うん、。よかったよ、叫んだりしなくて。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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俺もなんだかホッとした(笑)

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